梓がどきんとしたときには、さらりと前髪が除けられて、そっとくちびるを落とされていた。

 やわらかな和臣のくちびるが、触れるだけのキスをくれる。

「本当にかわいらしいな」

 顔を上げた和臣が、梓を間近で見つめてくる。目元はさっきのように、やわらかい笑みになっていた。

「……そんなことは、ない……です」

 梓はもっと恥ずかしくなってしまいながら、もにょもにょと言った。

 なのに和臣は「そんなわけがあるか」としれっと否定し、梓の髪を軽く撫でた。

「すまないな。こういう朝なのに、もう仕事に出ないといけないなんて」

 その通り、すまなさそうな声になる和臣。

 今度すぐに否定するのは梓のほうだった。

「いいえ。お仕事、早くからあるんですね」

 詳しくは知らないけれど、昨夜の時点からもう聞いていた。

 今朝は早く出る必要があるのだと、だから朝はゆっくり過ごせなくて申し訳ないと。

 だから不満なんてない。

 少し寂しくはあるけれど、あの甘い夜があったあとなら、そんなことは些細な問題だ。