それで、和に「じゃあ、夕方にね」と頭を撫でて、梓と和臣は幼稚園を去ろうとしたのだけど。

 奥にいた、もう一人。

 ことの発端になった男の子・穂住だ。

 非常に居心地悪そうにしていたし、もじもじしていたけれど、不意に大きな声を出した。

「わ、悪かったよっ!」

 ひとことだけ。

 しかも怒鳴るようなものだった。

 さらに、それだけ叫んで、奥へ、だだっと駆けていってしまった。

 梓はぽかんとしてしまった。

 あの子から謝られるなんて、まったく思わなかったのだ。

「……うん」

 予想外のことに、見送るだけになった梓とは違って、ぽつんと和が言った。

 それは『悪かった』を受け入れる……許すという言葉。

 勿論、こんな小さな声では、走り去った男の子には聞こえなかっただろう。

 でも和の中で、確かになにかが終わった。

 言うなれば、曇り空がすっきり晴れた。

 そうなってくれたことを、梓ははっきり悟ったのだった。