美穂が、ぎり、と歯を食いしばるのが梓にも見えた。

「……っ、うるさいわね! あんたなんかに指図されたくない! もう帰る!」

 だが言った言葉は、明らかに負け惜しみだった。

 美穂はぐいっと男の子を園の中に押しやり、自分はずかずかと、といった足取りで門のほうへ向かい、出ていった。

 梓はただ、それを見送るしかなかった。

 今更心臓がばくばくしてくる。

 一体なにが起こったのだろう。

 一連の出来事が怒涛すぎて、整理が追い付かない。

「パパ……!」

 動いたのは和だった。

 和臣の腰にぎゅっと抱きつく。

 そのことでその場の空気はほどけていった。

 安堵したようなものに取って代わる。