翌朝、梓はベッドで乱れたシーツにくるまりながら、シャツを着ていく和臣の背中を見つめていた。

 胸の中はとてもくすぐったく、幸せな気持ちだった。知らないうちに、やわらかで優しい視線になっていたようだ。

 きっと和臣はそれを感じ取ってくれたのだろう、振り向いた。

 まだシャツのボタンを留めただけの、ノーネクタイの姿だ。下もスラックスを穿いただけ。

 ただ、髪はもうしっかり整っていた。

 やわらかいくせっ毛の茶髪にワックスを揉み込み、猫のような優しい印象のある、常の髪型。

 常と言っても、梓が知っている彼はほとんどが『数年前の彼』なのだけど、そのときの『常』となにも変わっていなかった。

 懐かしいな、と思う。

 こういったところからも、彼はまったく変わっていないのだと思い知らされたのだ。

「まだ寝ていていいんだぞ」

 梓を見て、和臣の表情は、ふっと緩んだ。

 二重の優しい目元がたれ気味になり、愛しいという表情になる。

 ちょっと梓が恥ずかしくなってしまうくらい優しい表情と言葉だった。

 和臣は朝の支度を整えつつあるのに、自分はまだ、髪も顔も整えていないまま、シーツにくるまっているのだから。

 恥ずかしさが強まって、梓はごそっと動いて、シーツを口元まで持ち上げた。そっと口を隠すように潜る。

 その様子を見て、和臣はこちらへ一歩踏み出し、近付いてきた。