「梓」

 和臣の手が、梓の髪に触れた。

 大きな手が、こちらも洗い立ての髪を優しく撫でてくれる。

 同時に、耳に近い場所で呼んでくれた名前。

 小さい声量だったのに、梓にはしっかり届いた。

 それどころか、今は梓だけが聴ける声なのだ。

 梓の頭を優しく抱き込み、自分の肩に寄りかかる形にさせて、和臣はもう一度、口を開く。

 梓の耳を、あたたかな吐息がやわらかくくすぐった。

「愛してる。今はママとしてじゃなく……恋人として」

 やわらかな低音。

 しっとりと優しい響きは梓の胸を芯から震わせた。

「……私も、だよ。和臣さんを……愛してる」

 口に出すのは恥ずかしかった。

 でもためらわなかった。

 こういう時間は貴重だから、ためらうのは勿体ない。

 たくさん、愛の言葉を口に出して、交わしたい。

 その『愛を交わす』。

 このあともっとたくさん感じられるだろうことは、もうわかっていた。