そこから、今日はこれから送っていくとか、でも挨拶は改めてしたいから今日は簡単に、とか、そんな話をぽつぽつとした。

 楽しかったひとときが終わってしまうことが少し寂しく思った。

 でもこの楽しい時間も、幸せな時間も、これからはもう、ずっと続いていくものなのだ。

 そう考えれば、その時間に身を置けるように、先に進みたいと思う。

 やることは多いだろう。

 仕事も、和の幼稚園も、どうするかなんてまだ具体的に決めていない。

 引っ越しもするのだろう。

 それなら余計に大変だ。

 でもきっとできるし、それどころか前向きで楽しいものになるのだという確信がある。

 それなら負担どころか、幸せなことだ。

「梓」

 そろそろ帰るだろう、という空気のときに、和臣が梓を呼んだ。

 普通のしゃべり方にもだいぶ慣れた梓が「なに?」とそちらを見たときには、すっと腰に腕が回されていた。

 梓の目が丸くなる。

「これからは夫婦になる。親にもなる。……でも」

 そっと抱き寄せられた。

 ガラス窓から見える夕暮れの前で、寄り添う形になった。

「恋人としての気持ちも、ずっと持っていたいんだ」

 梓の体をしっかり抱いて、和臣はそう言ってくれた。

 梓の心臓が、とくとくと速くなっていき、すぐに心地良い高鳴りで満たされた。