もういいですよ、と女医は機械を下ろし、梓はまくり上げていたシャツをお腹まで戻した。

 女医は椅子を回転させ、梓に向き合っていたところからデスクに向き直る。

 なにかカルテに書き込みをはじめた。

「今、判明してすぐには考えにくいとは思いますが、四ヵ月に入ろうとしているので、なるべく早く決めたほうがよろしいです」

 しかし言われたことに、梓の心臓は冷たくどくりと跳ねた。

 そうだ、産まないならば早く決めなくてはいけない。

 詳しく調べたことはないものの、時間が経つと妊娠をやめる……堕ろすことができなくなるのだということは、女性として知っているに決まっていた。

「そう……ですよね」

 梓はぼうっとお腹を見下ろした。

 かわいらしい花柄のシャツ。

 その中にあるお腹が今、見えないことになんとなく安堵した。

 産むのか、産まないのか。

 二択が頭に浮かんだけれど、梓の気持ちは既に片方へ傾きつつあった。

 ただ、身の回りの状況と照らし合わせてそれが叶うのかは、すぐにわからない。

 仕事と家。

 主にそのふたつが問題だった。

 帰って、落ち着いてから考えて、家……実家であるが、そこへ話をして決めたほうが良いだろう。

「予約を取って行かれますか?」

 聞かれて、梓は「はい」と答えた。診察台からそろそろと降りる。