女医は数秒黙った。

 こういう仕事、産婦人科のお医者さんなんてしているのだから、こんなケースも慣れっこだろうけれど、それでも理想的でないのは間違いない。

 伴侶がいない状況での妊娠なんて。

「大丈夫ですよ」

 梓のその不安を感じ取ったのだろう、女医は不意に、にこっと笑った。

 梓はそろそろと顔を上げる。

 中年女医の微笑みが見えた。梓を安心させようと浮かべてくれたのだろう、優しい笑み。

「珍しいことではありません。これからどうするか、ちゃんと考えられれば大丈夫です」

 その微笑みと言葉に、梓の心は少しだけ、ほんの少しだけではあったが落ち着いた。

 来て良かった、と思った。

 はっきりさせるのは少し怖いと思って、知ってしまい、本当のことになるのが不安になりつつ来たのだけど、やはり知っておかなければいけなかったのだ。

 だから、本当に来て良かった。

 実感して、梓は無理をしたものであったが、笑みの形に表情を作った。

「ありがとうございます」