その7
夏美


既にここにいる聴衆は、紅丸有紀という若い女性の手のひらに乗っかっていた


皆、彼女の言葉に引き込まれ、陶酔の域に達していたのよ


この私を含め…


この人のこと、女暴走族の頭領だなんて偏見、もうアタマから消えてるって


私もそうだし


陸上部の先輩…、どうやら忠告で留められてるライン、とうに超えているようです


ここ、実際の現場では…


...


『…私は今までずっと、だ埼玉と東京もんの相互理解を得る場を模索していました。その結果、思いついたのが、東京埼玉の各高校陸上部から女子選手を選抜しての親善駅伝大会です!』


”おー!”


”パチパチパチ…”


ここでついに紅丸さんの口から出た…


親善駅伝のフレーズが!


...


『この駅伝は、東京校、埼玉校双方のランナーが同じチームで優勝を目指し、互いに協力し合うことを目的とした場とします。私は早速、居住地の自治体に問い合わせたところ、都県双方の高校協賛の大会となれば、大会実行に当たっての予算の問題とかもある為、都県両方の教育委員会の了解が必要とのことでした。そこで、今年の春先からこの間、私は仲間や多くの賛同者の方々と一緒に奔走してきました…』


再びこの場は、ワーとかウォーとかの歓声、そして盛大な拍手が交錯したわ


凄い盛り上がりだ


県民運動場に来ていた一般の人なんかも、何事かとこっちへ寄って来たりでね…(苦笑)


...


『正直、様々な障害がありました。中にはそんなこと、無理だよ、無駄だ、なんの意味があるんだよと…。そんな声が耳にも届きましたが、先程触れたとおり、常識に縛られない熱い気持ちでその実現に向けて、多くの理解者の皆さんとここまで行動して来たんです。そして、いよいよ来月、大会実現の要請上申書を東京都と埼玉県の両教育委員会へ提出する段階に漕ぎ着けたんです!』


ここでこの演説の場は頂点に達したようだ


みんな明らかに興奮しきってる


そして紅丸さんは、最後の締めに入るわ


...


『…いいですか、皆さん!この国の今の若い女性には、今一度問いたい。”ここ、違うんじゃない?でも決まりだし、今までずっとこのままだったし…。いや、ここは変えた方がいい。なら、やってみよう、まずはと…。このモチベーションがあなたを発熱させるんです。一緒にトライしてみませんか?今までからのモードチェンジを”、と…』


私も含め、ここに参集した女子中高生は陶酔しきってた…


このうち何人かが、紅丸さんの赤塗り覚醒者となっていたんじゃないのかしら


無論、私はその中の一人だったわよ、間違いなく…