その4
夏美



「そこで尋ねるわよ。ざっくりとでいいわ。あなたはまだ南玉入ってわずかだもの。組織内のこと、深くは知り得ていないのは承知だから。…夏美はさ、今問われれば守旧派と急進派、どっちに着く?」

「あのう…、私としては急進派のやり方云々も抵抗を感じますが…。それ抜きにして、紅丸さんの唱える基本理念を一番大事にしたいです。ですから、今、どちらの立場かと問われれば、守旧派ってことになると思います」

野上先輩の質問には、こう即答したわ

なぜかこの時は、すんなり自分の考えるところが言葉となって出てきたのよね


...


「うん、感心するわね。その視点とバランス感覚…。玲子、やっぱりこの子ね、”例の役”が担えるのは」

「ええ。この子しかいませんよ」

「…夏美、あなたの答えを受けて、私たち、厳密には現総長の美由紀たちも含めてだけど、あなたには1年連中の守旧派を引っ張って行ってもらいたい。いえ、それは正確じゃないわ。正しくは、1年メンバー内で急進派の過度な論調に染まるけん制役にとね。どう?」

「甲斐先輩、その前にお聞きします。先輩方は、いえ…、現総長もですが…、みなさんは南玉連合内の二派対立をなくすお考えはないんですか?今のおっしゃりかただと、内部対立を是認若しくはむしろ煽ってるように受け取れないこともないような…。すいません、生意気言って…」

私は自然とそう言う言葉が口から飛び出したが、要は前提をしっかり確認してからじゃないと、私の本心は手易く告げられないと…

そんなある種、自己防衛の判断が働いていたと思うんだ

...


「ハハハ…、いいのよ。さすがいい感性してるわね。あのね…、人間の集団はさ、一定の人数に達すれば意見の違うもの、そこには少なからず好き嫌いとかも最低限、付随するだろうけど、要は対立軸はどうしても発生するもんだと思うのよ」

野上先輩も、私のおそらく硬かったであろう表情に苦笑いしていたわ

「…それを独裁権限でなくすくらいなら、むしろ、二派がぶつかり合いながらの方がはるかに健全だと思う。今はさ、ある程度そうした内部抗争じみたレベルも仕方ないと捉えてるの…。何といってもこれだけメンバーが増えてきたんだしね。肝心なのは、むしろ今後よ。そこをしっかり捉えた対応こそ、今求められてる。これはイコール、あなたたちの代が組織を引っ張る時期を見据えてということにもなる…」

甲斐先輩…