その5
夏美



「…4組はもう”マップ”、回った?」

「ああ、あれね。ええ、最初は何かと思ったけど…。クラス全員の名前が席順で描いてあって、そこにいろんな印とかもね…」

「あれは自分達の思い通りにコトが進ませられるように、クラスの決め事…、たとえば学級委員を選ぶ時なら、丸で囲った人間を指定してるってことになるわ」

「まったく、何様だってんだってのよね。2組の学級委員で、連中が指定してのは内気でおとなしい男子だったわ。ねえ、緒方さん!」

この辺りから、キクはかなり激しい口調になっていたわ

「そういうことなのよ。アイツらの狙いは、言いなりにできるおとなし目の子を選んで、クラスの決め事などを自分達の思った通りに運ばせることよ」

「そういうことなのね…」

「そうなのよ、夏美。ちょっと信じがたいけどね…」


...


「相川さん、連中の強みはさあ…、コミュニケーションの密度ってことになるわ。全クラス全員をデータ分析化して、それを一派の仲間すべてで共有してるから、組織立てて計画を実行できるの。…去年、桃子と同じクラスで強く感じ取れたのは、クラスメート全員の、自分達にとっての役割処やその接し方まで、こと細かく割り当てているってこと」

「そんな中学生って健全じゃないでしょ、夏美…」

「うん…。ふう…、同い年のクラスメートをデータ化とかってねえ…」

さすがにここまでかって、ちょっと驚いちゃってね

これ、ホントならほっとけないでしょって、危機感を抱いたわ


...


「それはさ、こういうことになるわ。…例えばある女子生徒とは相手をたててさ、適度な距離感で友好関係を保つ。一方、ある男子生徒には人が嫌がるようなことを押し付けるポジションに定めるとか、基本は強きには媚びてその力を利用し、弱きには損な役回りを押し付け、さらにそれも利用する…」

「そういうことなの…。全く…、大名顔負けね」

ここまでくるとさすがに唖然となったわ

「そう…、要はすべて自分達の利になることを最優先にして、先生の目に触れない形で水面下から組織操縦を行うってね。こんな不健全極まるシステムを目論む横暴なんて、断じて見過ごせないわ!」

「…」

緒方さんは毅然とそう言いきったわ…