芸能人にそっくりな美しい妻、まるでレストランで出されるような出来栄えの料理、綺麗な一軒家、医師という高い地位の仕事に就いている自分。ーーーこんな完璧な人生を歩める人間はそうそういない、そう思いながら拓海は笑みを浮かべる。

(俺の人生って最高だな!)

更衣室を出ようとして、拓海は亜美に朝言われたことを思い出し、スマホを取り出す。そして「今から帰る」とLINEを送った。すぐに既読がつき、「了解!」と猫の可愛らしいスタンプが送られてくる。

「よし!これであとは帰るだけだな!」

かばんを手に拓海は駐車場へと向かう。陽が落ちた駐車場は真っ暗で、周りには誰もいない。拓海はいつものように車を開けようとした。刹那。

「グアッ!!」

突然、バチンという音と共に拓海の首に鋭い痛みが走った。そのまま拓海の意識は遠のいていく。

最後に拓海が見えたのは、黒いコートを着た誰かの足だった。



「ううっ……」

拓海は首の痛みを感じながら、目を開ける。目の前には荒れ果てた不気味な廃墟の部屋が広がっていた。