「ゴメンナサイ…。そちらの自己紹介を笑ったりして…」

「いえ…。ここでこぼれ笑いもなしに神妙な顔されたら、かえって辛い(笑)。今のリアクションは嬉しいですよ」

「はあ…、すいません…」

やや取ってつけたような理屈立てでのリターンではあったが、S美の笑顔は照れ笑いにスライドしていた。

うぶ…?

そんな二文字がオレのアタマをよぎった。
これも、”平時”なら、取るに足らないスルーもので終わりだ。
でも…、やっぱ、この時期なんだろう。

目の前の平凡極まる体育会系の地味女が、呼吸レベルの自問自答を無意識で晒してくれてる絵柄に、今のオレが身を置くマインドには極で響いちゃったということで。

***

で、この日のランチ到着は事のほか、早かった。
自己紹介して、取るに足らないジャブの交わし合いみたいな雑談してたら、店員が“お待たせいたしました”と料理一色を運んできた。

「おー、今日は早いな。S美さん、どうぞ、召し上がりましょう!」

したら…、彼女、またまた何ともなカオでオンリー・リアクションだったわ。

「はい。でも…、あのー、これ見慣れたランチですけど、かなりなご馳走に見えちゃう。なんでだろう…」

この彼女、目を細めて感無量をこうぶち上げてきたよ。

素直…。
今度はこの二文字がアタマをよぎった。

***


ニンゲンって…、ひょっとして、気まぐれのマジョリティーで進化した?
ちがうのはわかりきってる。
でも…。

テメーをドンと省みる機会がそこにドンとなれば、結局は足元に視界は占拠される。
そういうことさ。

灯台は下を照らせない。
だが、そこを事前自覚できるショットを会得できてるなら、ニンゲン、とてつもなく素直になれるんじゃないかな。
謙虚を伴って。

そこをベースで共に自認ってんなら、このS美とは互いの目線を信頼しあえる二人ってカンケーも可なんじゃないかって思えた。

で、オレは突飛ながら、S美にこう問いかけた。

「S美さん、口元を隠すこと…、それを計算しちゃって人と接する今の日常って、不健全だと思いませんか?」

「そうですね…、私も同感だなあ」

彼女は大きく頷いていた。
すでに二人の会話してはスイングしてたわ。
なので、オレは今のキモチをさらに吐き出すことにした。
正直に。

***

「だから、そんな中でこんな出会い方ができたアナタとは、そうでない立場でありたいな。変なこだわりだけど…」

「じゃあ、スマホでマスクなしのカオ撮り、お互いでしときましょうか?」

「…」

”おー、ここでこの発想か〜〜“

箸を片手に、オレは思わずキョトンとした表情でS美をマジ見しながら、変に感心しちゃってさ。
彼女は照れ笑いを伴ってではだったが、その口っぷりからは真剣味が伝わってきたんだ。

ここで、この女性…、10歳下のS美に対し、決定的な興味、引っ張られ感が瞬時に湧いてきたよ。
それで、さり気に心の中で囁いたかな。

このヒトの“ココロの素顔”を見たい…、と…。