…しかし、わたしがお団子を味わうことは叶いませんでした。
団子の串を地面に落としてしまったためです。

「…えっ?」

体がふわりと浮かび上がる…いえ、何者かに抱えられる感覚がありました。
唐突な出来事に、驚きの表情を浮かべる義嵐さまと仁雷さま。
お二人ではない…。では、一体誰が?

「…だ、だれ……っ?」

自分を抱え上げた人物の顔を見上げて、わたしは驚きの声を上げます。
それは見たこともない、青い髪に、青い着物を纏った男性でした。
義嵐さま以上の大きな体。とても険しい顔。彼はわたしをじろりと睨み、

「犬居の娘、確かに貰い受けたぞ。」

それだけを言うと、踵を返し、街道を真っ直ぐに走り出しました。

「きゃ…っ!」

「早苗さんっ!!」

なんという速さ。人間の脚ではないみたい。例えるなら森を駆る獣のような、野生的な足運びなのです。
一体どういうことなのかしら。なぜ突然わたしを?

「っ、じ、仁雷さま!義嵐さま!」

遥か遠くに置き去りにされたお二人に向かって、声の限り叫びます。
けれど、その声が届くよりも速く、青い男の人はどんどん距離を広げていきました。

「…な、何ですか!お願い、離してください…!」

「あまり抵抗するなよ、犬居の娘。儂が欲しいのは貴様の命のみ。五体の無事までは保証せぬからな。」

冷たくて恐ろしい言葉。太く強い腕に捕らえられたわたしの体は、少しの自由もききません。

ーーー懐剣も、出せない…!

なんて無力なのでしょう。自分の身一つ守れないなんて。
わたしは為すすべなく、遠くに霞んでいくお二人の姿を見ていることしか出来ませんでした。