彼は、そんな風に思っていたんだ。
私は、台本を読みながら当時のことを思い出していた。
私も始めの頃は、そうではなかった。
『リサ、今度の休みどこ行く?』
『遊園地行きたい!!!』
『いいじゃん!行こ行こ!』
彼がデビューするまでは、私たち2人は、よく外へ出かけることができていた。
変装をしながらだけど、普通の恋人のようにデートをしていた。
でも彼がデビューしてからは、当然のことながら家でのデートばかりになってしまった。
でもそれでも良いと思っていた。
彼に会えるのならば。
でもそれも難しくなっていったのだ。
ある日、ドラマ番宣で出演したバラエティーでるいと一緒になった。
私とるいは、違うドラマだったが、同じ局で同じシーズンに放送されるドラマに出演予定だった。
そのバラエティーの休憩中のことだった。
『リサちゃん、今から俺と昼ごはん食べに行こうよ。』
当時ドラマで共演していた中年のベテラン俳優の須藤さんが話しかけてきた。
須藤さんは、いつも私に構ってきて、セクハラ的発言をしてきたりもしていた。
でも拒まないのは、
このドラマに出演し続けるためだった。
渋々返事をしようとしていたその時、彼が現れたのだった。
『須藤さん!お久しぶりです。今からご飯ですか?』
『おう。…るいか。』
須藤さんは、るいを見ると、バツが悪そうな顔をしていた。
『須藤さんも一緒にメシ行きましょうよ!僕話したいことあるんで!』
そう言ってるいは、須藤さんと共にこの場を立ち去った。
彼は、いつも私を助けてくれる。
でもこの行動がいけなかった。
みんなが見ているところであの敏腕マネージャーの如月さんが気づかないはずがなかった。
『佐藤リサさんよね?』
如月さんが私に話しかけてきた。
『はい。』
『ちょっといいかしら?』
そう言って私たちは、人目がないカフェで話をすることになった。
『単刀直入に聞くけど、るいと付き合ってるの?』
私は、如月さんの鋭い目に負け、気づいたら頷いていた。
『やっぱりね。』
『気づいてらっしゃったんですか?』
『ええ。映画の撮影の時から怪しいなぁとは思ってたけど、気づいたのは、最近よ。』
『そうなんですね。』
『私は、あなたたちが付き合っていることには、反対は、しないわ。でもバレないで欲しいの。』
『はい。』
『るいは、今が肝心な時なの。あなたと違ってアイドルで人気にも関わることなの。』
『はい。』
『さっきのるいの行動を見ていて心配になったの。るいは、賢い子なのだけど、あなたのことになると周りが見えなくなるみたいなの。』
『はい。すみません。』
『だから会う頻度を減らしてほしいの。外はもちろんのこと家でも周りに記者がいないかに気を配ってね。』
『はい。』
私は、如月さんの言葉に返事をすることしかできなかった。
それから私は、自分がるいの仕事に迷惑をかけてしまっているんだと思うようになってしまった。
だから彼が仕事で私とのデートをドタキャンした時も、
電話さえも1ヶ月もくれなかった時も、
何も言わなかった。
言えなかったの。
あなたに迷惑をかけてはいけないと思って。
急に家に来てくれた日も、
誰かにバレてしまうのではないかと嬉しさよりも不安が大きかったの。
自分で決めたことなのに、あなたと会えない日々が増えていくと、あなたが浮気をしているのではないかと疑ってしまうようになっていた。
そしてそれが現実になってしまったの。
私があれだけ恐れていた週刊誌。
あなたは、私以外の誰かと簡単に撮られた。
私の今までの努力はなんだったの?
彼が浮気をしたことの苦しみよりもそれが大きかった。
でも今なら分かる。
彼が浮気をした理由が。
だって彼は、そんな私を見て、
私が彼を愛していないと思っていたのだから。
あの頃の私たちは、すれ違いすぎていたのだ。