今日の撮影が終わり、家へと着いたのは、深夜だった。
今回の作品は、通常の倍以上の体力を消耗する。
鉛のように重い身体を精一杯動かせて、テレビをつけた。
テレビをつけると、今1番思い出したくない彼が出演していた。
『今回のゲストは、来月から始まる新ドラマで主演を務める西園寺るいさんです。よろしくお願いします。』
いつどんな時にテレビをつけても彼がでている。
その事実が彼が国民的スターであることを私に嫌という程痛感させる。
そういえば、あの時もそうだった。
あれは、クリスマス事件前のことだったと思う。
美容師の人にさくらさんのSNSを見せてもらった直後。
「もしもし。るい。今日なんの日か覚えてる?」
彼が電話に出るか試したかっただけだった。
正直本当に言いたいことは、こんなことではなかった。
そのどうでも良い質問に彼はこう答えた。
「今日?なんだっけ?」
記念日など気にしない私にとっては、どうでも良い質問では、あったが、
美容室での出来事の後だった私は、
彼のこの返答に怒りを覚えたと同時にどうしようもなく不安が襲った。
「ううん。」
「どうした?」
「もういいよ。」
「なんだよ。何かあるなら言えよ」
〈Rabbitの皆さん、出番です。〉
電話の向こうから彼を呼ぶ声が聞こえてくる。
彼の呼ぶ声が女性であったことも気になるぐらいこの頃の私は、思い詰めていた。
『リサ、ごめん。もう行かないと。』
『うん。またね。』
そう言って彼は、電話を切った。
この日は、私たちが付き合って2年目の記念日だった。
私が一般人だったら、こう言ったのかな?
『仕事と私、どっちが大事なの?』って。
どれだけ売れない女優でも芸能界が特殊な世界であることは、重々わかっている。
テレビに出させてもらえるうちに頑張らないと、周りの人に置いていかれる。
だからルイは、今は、仕事を頑張らないといけない。
わかっているからこそ辛かった。
何も言えないのが。
この頃の私は、彼が浮気をしているのではないかという不安以外にも不安要素があった。
この頃の自分は、ルイと対称的に仕事が激減していた時期だった。
そのため彼との差も自分を苦しめた。
この日も電話を切って、テレビをつけたら画面には、彼がいた。
4年前のことを思い出しながらテレビを観ていたわたしは、次の瞬間衝撃的な言葉を耳にする。
『今回の作品の脚本にルイさんも関わっていらっしゃるというのは、本当ですか?』
『いえいえ。関わるなど大変おこがましいのですが、実は、この物語は、僕の過去の恋愛をもとに脚本家の方に執筆して頂いたんです。』
あまりの衝撃に食べていたラーメンを吐き出してしまった。
え?どうゆうこと?あの話は、私たち2人の物語ということ?
『ノンフィクションという訳ではないのですが、今回は、リアリティーに近い演技をしたいなと考えていたので、過去の恋愛をテーマにしました。
でも今は、ファンの方を1番に愛しているので恋人は、いません。
それだけは、信じていてください。』
さすがアイドル。
ファンの気持ちも忘れない。
アイドルの鏡だね。
…って感心している場合じゃなくて。
やっぱりおかしいと思った。
あんなにも私たち2人に起きたことがドラマでも起きている。
あれは、私たちの物語なんだ。
わたしは、慌てて次の台本を開いた。
次の台本。
〈レオとみなみがクリスマスの日一緒にいる写真を週刊誌が掲載した。そのことを知ったあずさは、ショックを受ける。そして、あずさは、一方的に別れを告げる。〉
あまりのリアリティーさに鼻で笑うレベルだ。
〈一方的に別れを告げられたレオは、あずさに真実を告げられないままでいた。そして仕事も手に付かず、荒れた日常を過ごしていた。〉
え?真実ってどういうこと?ルイは、私と別れたあと、さくらさんと付き合ったんじゃないの?
私は、続きが気になり、台本を読み進めた。