「1話見た?すごい反響よ!監督もリサの演技、絶賛してたよ。次の新作も呼んでくれるって。」
次の撮影日、後藤マネージャーが監督に褒められたことを誇らしげに報告してくれた。
私は、その事実になんとも言えない喜びを感じた。
この3年間、どの作品に出演しても、話題に上ることがなかった。
だが彼と再会してから様々な物事が良い方向に動いているような気がする。
「では、次のシーン始めます。よーいアクション。」
ADさんの声と共に次のシーンが始まった。
〈高校卒業後、アイドルデビューを果たした僕は、仕事で忙しい日々を過ごすようになった。そうして彼女に会えない日々が続くようになった。〉
『もしもし、どうしたの?』
『あずさ、ごめん。海外ツアーに行くことになって、短くて1ヶ月ぐらい会えない。ごめん。』
『そうか。全然いいよ。海外ツアーなんて人気者だね。私も嬉しいよ。』
『ありがとう。側にいてあげられなくてごめんな。』
『謝らないでよ。また1ヶ月後会おう。』
〈僕は、自分の夢が実現していくにつれ、彼女と会えない日々が続いていった。そしてあの日もそうだった。〉
『もしもし。アキラ?』
〈彼女の声を聞くのは、1ヶ月ぶりだった。〉
『もしもし。あずさ?久しぶりだな。元気だった?』
『うん。』
〈彼女の声が心なしか元気がなさそうに思えた。〉
『どうしたの?』
『今度のクリスマス、空いてるかなと思って。』
『…あ。ごめん。その日仕事入ってて。』
『そうだよね。忙しいよね。』
『ごめん。』
『いや、いいよ。じゃあ、またね。』
〈今でも思う。このクリスマスの日に仕事よりも彼女の方を優先していればって。そうしたら僕らの運命も変わっていたのかな?〉
「はい!カット!少し休憩挟みます。」
監督の声と共に周りの人々が移動していく中、私は、スマートフォンを片手に動き出せずにいた。
今回のドラマの主人公と私たちは、付き合い始めたきっかけが同じだった。
でもそんなことは、よくあることだと思っていた。
でも違う。
きっかけだけじゃない。
さっきのシーンでの武田アキラと斎藤あずさの電話でのやり取りの一言一句が3年前私がるいとした電話の内容と全く同じだったのだ。
どういうことなの?たまたまな訳ないよね?
この電話の内容は、私とるいしか知らないはず。
今起きた出来事に頭が追いついていない私に追い討ちをかけるように彼女が現れたのだった。
「一ノ瀬みなみ役の東堂さくらさん入られます。」
東堂さくら…?ってあの東堂さくら?
「東堂さくらです。るいくん、久しぶりね。」
「はい。お久しぶりです。」
「また共演できて嬉しいわ。」
「こちらこそ光栄です。」
2人が話している様子をスタッフ達がジロジロと見ていた。
まさかこの2人がまた共演するなんて。
私も含めこの場にいた全ての人が驚いていた。
そんな空気を気にも留めない様子で彼女は、私に話しかけてきた。
「佐藤リサさんも久しぶりね。元気だった?」
先程まで愛おしそうな目でるいを見つめていた彼女が不思議な笑みを浮かべ、私にも話しかけてきた。
私は、彼女に怯えながらも精一杯の返事と笑顔を返した。
私は、この時気づいたのだ。
このドラマは、ドラマではない。
4年前にタイムスリップしたような世界なのだと。