彼が主演するドラマのヒロインにこんな落ちぶれた女優が選ばれるはずがない。
もう彼に会うことは、二度とないと思っていた。
だがそんなある日、事件が起きた。
「リサ!大変よ!」
「後藤さん、どうしたんですか?」
「今度のドラマのヒロインに選ばれたみたいなの!」
「今度のドラマってるいが主演するドラマですか?」
「そうよ…どうする?」
後藤さんが心配そうに私を見上げているのが分かった。
るいと共演するのは、正直気まずい…
だけど、日本で最も人気のある俳優である西園寺るいの相手役を務めるチャンスなど2度とやってこない。
必ずこの作品は、話題になるはず。
私ももう一度、日の目を浴びることができるかもしれない。
「後藤さん。私、その仕事引き受けます。」
「…いいの?」
「人気女優になるという夢を叶えるために頑張ります。」
こうして元彼と恋愛ドラマで共演することとなったのだ。
「リサ、くれぐれもるいくんと付き合ってたことは、バレないようにね。極力仕事以外の話は、しないこと。誰が聞いているか分からないからね。」
「はい。」
幸いにも世間に私たちが元恋人同士であることがバレていなかった。
彼は、人気絶頂中のアイドル。
彼との昔の関係が世間にバレてしまうと、折角手にしたチャンスが水の泡になってしまう。
なんとしてでも最後までこの仕事をやり遂げなくては。
私の女優人生を賭けて。
そして顔合わせの日がやってきた。
「鬼頭プロデューサー、このたびはありがとうございます。」
「あ〜後藤ちゃん。」
「うちの佐藤、本日からよろしくお願いします。」
「佐藤リサです。鬼頭プロデューサーの期待に応えれるよう頑張ります。よろしくお願いします。」
「あ〜勘違いしないでね。俺が選んだんじゃないから。」
気まずそうな顔をした鬼頭プロデューサーの言葉に驚きを隠せなかった。
「るいがさ、佐藤リサがヒロインじゃないとこの仕事受けないって言うからさ、仕方なくだよ。まぁ頑張ってくれよ。」
どういうこと?…私がヒロインだと気まずいはずなのにわざわざ私を選んだってこと?
こないだも鬼頭プロデューサーの前で私に話しかけてきたり、なんなの。
何を企んでるの?
様々なことを考えていると、ドアの向こう側から大人数の足音が近づいてきた。
「西園寺るいさん入られます。」
るいが現場に到着したようだ。
彼の周りを多くの事務所スタッフらしき人が囲んでいた。
「るいのスタッフ、こんなに多いんですね。」
私は、あまりの衝撃に後藤マネージャーに話しかけていた。
「5年前に熱愛報道出てから、事務所の警備が厳しくなったらしいよ。絶対に共演者と仕事以外の会話をさせないようにするためらしい。」
「そうなんですね。アイドルも大変なんですね。」
そんな話をしていると、集団の先頭にいた如月さんがこちらへとやって来た。
「佐藤リサさん、後藤マネージャー。このたびは、うちの西園寺がお世話になります。」
「如月さん。こちらこそよろしくお願いします。」
彼女の顔を見ると、今でもビクッとしてしまう。
でもあんなことがあったのに、何故彼のマネージャーは、私との共演を許したのだろうか。
そんなことを考えていると、彼の声がした。
「リサちゃん、よろしくね。」
彼は、そう言って手を差し出してきた。
付き合っていた時は、私のことをリサって呼んでいた。
絶対に今考えることじゃないのに、そんな小さなことが気になった。
当たり前だけどそのことに何故か悲しくなった…
いやいや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「るいくん。よろしくね。」
私は、思いっきり愛想笑いで彼と握手を交わした。
「では、本読み始めます」
私たち演者に台本が配られた。
今回のドラマは、主人公である国民的アイドルの武田アキラとOLの斉藤あずさの格差恋愛がテーマだった。題名は、〈僕が伝えたい君への想い〉。
高校生の同級生だったアキラとあずさは、文化祭の劇で主演とヒロインを演じたことがきっかけで付き合うこととなる。
『アキラ、大丈夫?台詞上手く言えない?』
『おう。ごめんな。俺のせいで。』
『いいよ。一緒に練習しよ!』
『俺、本当に情けないな。台詞も言えないのに、俳優になりたいだなんて。』
『そんなことないよ!アキラは、感受性が豊かで台詞にも感情が伝わってくる。必ず人気俳優になれるはずだよ。』
『…あずさ、ありがとう。俺が人気俳優になっても側にいてくれる?』
『え?それって私に告白してるの?』
『そうだよ。俺と付き合ってほしい。』
『うん。』
〈アキラは、あずさを抱きしめた。〉
「はい。カット。」
カットがかかってもるいは、私を抱きしめている手を私から放さなかった。
「るいくん?」
るいは、他の誰にも聞こえない声で私の耳元でこう囁いたのだった。
「僕と付き合いだしたきっかけ、思い出してくれた?」
「おい!るい、もうカットかかってるぞ。」
「すいません。役に入り込みすぎて。」
そう言って彼は、私の元から離れていった。
さっきのは、何?
アキラとしての言葉なの?
それともるいとしての言葉?
私たちが付き合いだしたきっかけ、思い出したかって?
そんなの思い出したに決まっているじゃない。
だって…
アキラとあずさが付き合った理由が私とるいが付き合ったきっかけと全く同じだったから。
「すみません。リサさん。何度もNGを出してしまって…」
「全然いいよ!演技はじめてなんでしょ?」
「はい…」
「私なんてはじめての時、もっと緊張してたよ?」
「そうなんですか?」
私と彼が初めて共演した時、彼はアイドルデビュー前の練習生でこの作品が俳優デビュー作だった。
なんでも純粋にアドバイスを求めてくれる彼が同い年ながら可愛いなぁと思っていた。
そんなある日、彼が衝撃の一言を口にしたのである。
「リサさん、悩み事があるんですけど、聞いてくれます?」
「もちろん!なんでも聞いて!」
「実は、僕芸能界辞めようかなと思っていて…」
「え?!?」
あまりの衝撃に大声を出してしまった。
「ちょ、リサさん声デカいです!!!」
「あ…ごめんごめん。なんで?」
私は慌てて理由を聞いた。
「あの…僕今年で20なんですけど、まだCDデビューできていなくて。これ以上練習生を続けてもデビューできるか分からないですし…諦めるのもアリなのかなって思いはじめたんです。」
彼が下を向きながら私に話してくれた。
私はこの撮影期間を通じて、彼の俳優としての演技に魅了されてた。
このまま彼が一般人に戻ってしまうのは、勿体なさすぎると感じた私は、何も考えずに言い出していたのである。
「絶対辞めない方がいいよ!…
るいは、唯一無二のスターだと思う。
るいの台詞には、本当の感情がこもってる。
るいの目の演技にいつも圧倒されて、声に揺さぶられて、私もるいの台詞に乗っかるように演技することができるの。
それだけじゃなくてるいには華がある。
だからアイドルとしても人気者になれるはずだよ。
だから諦めるなんて勿体無い!」
「ははは。勢いすご。そんな風に思ってくれてたんだ。」
「あっ…ごめん…言いすぎた。…でもるいの人生だもんね。ごめん。押し付けすぎた。」
「いいや。ありがとうございます。
そうな風に思ってくれていて嬉しいです。
僕頑張れそうです。」
「あっそう?良かった。」
「リサさん、撮影が終わっても…デビューしても僕と一緒にいてくれますか?」
「え?それってどういう意味?」
「リサさんってもしかして天然なんですか?」
彼は、馬鹿にしたように笑った。
「リサさん、僕と付き合ってください。」
「はい。」
こうして私たちは、付き合うことになった。
もう彼に会うことは、二度とないと思っていた。
だがそんなある日、事件が起きた。
「リサ!大変よ!」
「後藤さん、どうしたんですか?」
「今度のドラマのヒロインに選ばれたみたいなの!」
「今度のドラマってるいが主演するドラマですか?」
「そうよ…どうする?」
後藤さんが心配そうに私を見上げているのが分かった。
るいと共演するのは、正直気まずい…
だけど、日本で最も人気のある俳優である西園寺るいの相手役を務めるチャンスなど2度とやってこない。
必ずこの作品は、話題になるはず。
私ももう一度、日の目を浴びることができるかもしれない。
「後藤さん。私、その仕事引き受けます。」
「…いいの?」
「人気女優になるという夢を叶えるために頑張ります。」
こうして元彼と恋愛ドラマで共演することとなったのだ。
「リサ、くれぐれもるいくんと付き合ってたことは、バレないようにね。極力仕事以外の話は、しないこと。誰が聞いているか分からないからね。」
「はい。」
幸いにも世間に私たちが元恋人同士であることがバレていなかった。
彼は、人気絶頂中のアイドル。
彼との昔の関係が世間にバレてしまうと、折角手にしたチャンスが水の泡になってしまう。
なんとしてでも最後までこの仕事をやり遂げなくては。
私の女優人生を賭けて。
そして顔合わせの日がやってきた。
「鬼頭プロデューサー、このたびはありがとうございます。」
「あ〜後藤ちゃん。」
「うちの佐藤、本日からよろしくお願いします。」
「佐藤リサです。鬼頭プロデューサーの期待に応えれるよう頑張ります。よろしくお願いします。」
「あ〜勘違いしないでね。俺が選んだんじゃないから。」
気まずそうな顔をした鬼頭プロデューサーの言葉に驚きを隠せなかった。
「るいがさ、佐藤リサがヒロインじゃないとこの仕事受けないって言うからさ、仕方なくだよ。まぁ頑張ってくれよ。」
どういうこと?…私がヒロインだと気まずいはずなのにわざわざ私を選んだってこと?
こないだも鬼頭プロデューサーの前で私に話しかけてきたり、なんなの。
何を企んでるの?
様々なことを考えていると、ドアの向こう側から大人数の足音が近づいてきた。
「西園寺るいさん入られます。」
るいが現場に到着したようだ。
彼の周りを多くの事務所スタッフらしき人が囲んでいた。
「るいのスタッフ、こんなに多いんですね。」
私は、あまりの衝撃に後藤マネージャーに話しかけていた。
「5年前に熱愛報道出てから、事務所の警備が厳しくなったらしいよ。絶対に共演者と仕事以外の会話をさせないようにするためらしい。」
「そうなんですね。アイドルも大変なんですね。」
そんな話をしていると、集団の先頭にいた如月さんがこちらへとやって来た。
「佐藤リサさん、後藤マネージャー。このたびは、うちの西園寺がお世話になります。」
「如月さん。こちらこそよろしくお願いします。」
彼女の顔を見ると、今でもビクッとしてしまう。
でもあんなことがあったのに、何故彼のマネージャーは、私との共演を許したのだろうか。
そんなことを考えていると、彼の声がした。
「リサちゃん、よろしくね。」
彼は、そう言って手を差し出してきた。
付き合っていた時は、私のことをリサって呼んでいた。
絶対に今考えることじゃないのに、そんな小さなことが気になった。
当たり前だけどそのことに何故か悲しくなった…
いやいや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「るいくん。よろしくね。」
私は、思いっきり愛想笑いで彼と握手を交わした。
「では、本読み始めます」
私たち演者に台本が配られた。
今回のドラマは、主人公である国民的アイドルの武田アキラとOLの斉藤あずさの格差恋愛がテーマだった。題名は、〈僕が伝えたい君への想い〉。
高校生の同級生だったアキラとあずさは、文化祭の劇で主演とヒロインを演じたことがきっかけで付き合うこととなる。
『アキラ、大丈夫?台詞上手く言えない?』
『おう。ごめんな。俺のせいで。』
『いいよ。一緒に練習しよ!』
『俺、本当に情けないな。台詞も言えないのに、俳優になりたいだなんて。』
『そんなことないよ!アキラは、感受性が豊かで台詞にも感情が伝わってくる。必ず人気俳優になれるはずだよ。』
『…あずさ、ありがとう。俺が人気俳優になっても側にいてくれる?』
『え?それって私に告白してるの?』
『そうだよ。俺と付き合ってほしい。』
『うん。』
〈アキラは、あずさを抱きしめた。〉
「はい。カット。」
カットがかかってもるいは、私を抱きしめている手を私から放さなかった。
「るいくん?」
るいは、他の誰にも聞こえない声で私の耳元でこう囁いたのだった。
「僕と付き合いだしたきっかけ、思い出してくれた?」
「おい!るい、もうカットかかってるぞ。」
「すいません。役に入り込みすぎて。」
そう言って彼は、私の元から離れていった。
さっきのは、何?
アキラとしての言葉なの?
それともるいとしての言葉?
私たちが付き合いだしたきっかけ、思い出したかって?
そんなの思い出したに決まっているじゃない。
だって…
アキラとあずさが付き合った理由が私とるいが付き合ったきっかけと全く同じだったから。
「すみません。リサさん。何度もNGを出してしまって…」
「全然いいよ!演技はじめてなんでしょ?」
「はい…」
「私なんてはじめての時、もっと緊張してたよ?」
「そうなんですか?」
私と彼が初めて共演した時、彼はアイドルデビュー前の練習生でこの作品が俳優デビュー作だった。
なんでも純粋にアドバイスを求めてくれる彼が同い年ながら可愛いなぁと思っていた。
そんなある日、彼が衝撃の一言を口にしたのである。
「リサさん、悩み事があるんですけど、聞いてくれます?」
「もちろん!なんでも聞いて!」
「実は、僕芸能界辞めようかなと思っていて…」
「え?!?」
あまりの衝撃に大声を出してしまった。
「ちょ、リサさん声デカいです!!!」
「あ…ごめんごめん。なんで?」
私は慌てて理由を聞いた。
「あの…僕今年で20なんですけど、まだCDデビューできていなくて。これ以上練習生を続けてもデビューできるか分からないですし…諦めるのもアリなのかなって思いはじめたんです。」
彼が下を向きながら私に話してくれた。
私はこの撮影期間を通じて、彼の俳優としての演技に魅了されてた。
このまま彼が一般人に戻ってしまうのは、勿体なさすぎると感じた私は、何も考えずに言い出していたのである。
「絶対辞めない方がいいよ!…
るいは、唯一無二のスターだと思う。
るいの台詞には、本当の感情がこもってる。
るいの目の演技にいつも圧倒されて、声に揺さぶられて、私もるいの台詞に乗っかるように演技することができるの。
それだけじゃなくてるいには華がある。
だからアイドルとしても人気者になれるはずだよ。
だから諦めるなんて勿体無い!」
「ははは。勢いすご。そんな風に思ってくれてたんだ。」
「あっ…ごめん…言いすぎた。…でもるいの人生だもんね。ごめん。押し付けすぎた。」
「いいや。ありがとうございます。
そうな風に思ってくれていて嬉しいです。
僕頑張れそうです。」
「あっそう?良かった。」
「リサさん、撮影が終わっても…デビューしても僕と一緒にいてくれますか?」
「え?それってどういう意味?」
「リサさんってもしかして天然なんですか?」
彼は、馬鹿にしたように笑った。
「リサさん、僕と付き合ってください。」
「はい。」
こうして私たちは、付き合うことになった。