カシャカシャ、カシャカシャ——。
まるで私の心臓の音とシンクロするかのように、会場にシャッター音が響く。

真っ白なドレスに身を包み、鏡の前で何度も深呼吸をした。
だけど、胸のざわつきは消えない。

「大丈夫、リサ。あなたならできる」

自分にそう言い聞かせても、震える足は止まらなかった。

会場に足を踏み入れると、煌めくシャンデリアが天井で優しく輝き、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだみたい。

隣に座るのは、誰もが憧れる国民的女優。
彼女の自信に満ちた笑顔が、逆に私の不安を大きくした。

でも、振り返ると、大御所俳優たちが静かに見守ってくれている。

「この場所にいる私、本当に夢みたい」

そんなことを思いながら、手のひらの汗をドレスの裾で拭った。

会場の明かりが落ち、スポットライトが舞台を照らす。

司会者の声が、まるで私の胸の鼓動を代弁するかのように響いた。

「今年の最優秀主演女優賞は…」

胸が締め付けられ、息が詰まる。

「〈届かぬ想い〉で主演を務めました、佐藤リサさんです。」

「私…?」

驚きと喜びで、足元がふらついた。

拍手の嵐の中、必死で立ち上がり、頭を下げる。
心の中では、過去の涙や挫折が渦巻いていた。

ステージに上がると、彼がそこにいた。

あの大河ドラマで徳川家康を演じた、尊敬する大御所俳優。

「おめでとう。」

彼の言葉は、私に勇気と温もりをくれた。

けれど、マイクを握った瞬間、頭が真っ白に。

「練習したのに…何も思い出せない」

そんな私を見て、マネージャーの鬼頭が小さく声をかけてくれた。

「こ!」

その声に救われ、やっと言葉が紡げた。

「こ、今回受賞できて本当に嬉しいです。まだ実感はありませんが、これからも皆さんの期待に応えられるよう、努力します。」

涙が、こらえきれずにあふれた。

これが、23歳の私の、始まりの物語だった。