「行ってらっしゃーい! 楽しんできてくださいね!!」

 モモは同じ寝台車の独身女性三人に手を振った。

 お洒落(シャレ)をしてメイクもバッチリ決めた女性陣は、満面の笑顔でモモに応え、はしゃぎながら外へ消えてゆく。

 今宵の貸切公演を見に来ていた地元青年団と意気投合し、彼等の宴会に招かれたのだそう。

 モモは未だアルコールが呑めない為、彼女達のお誘いは断って、独りお留守番とあいなった。

 毎春を過ごす桜並木の町へと移動し、既に一週間が過ぎていた。

 明日は初めての休演日だ。

 外の空気も少しずつ暖かみを増して、今夜は誰もが解放感に満たされているのだろう。

 モモも昨年同様に依然五分咲きの夜桜を鑑賞しようと、上着を着込んで車を降りた。

 それでも時折吹く風は、柔らかな印象の春風には程遠かった。

 その分空気は澄み渡って、淡雪のような桜の波が、ずっと先まで望めるだろうと嬉しくなる。

 そんな気持ちを表すように、弾む足取りで向かった敷地の角には、昨春と同じくのっぽの背中が立っていた。