その後…



『…本当に流子ちゃんには、なんてお礼を言っていいのか…。おかげで、サダトのファンの人たちからも温かい目で見てもらえて…。家内も毎日、サダトの仏前で涙を浮かべてヤツに報告してるんですよ。潮田さん、いずれ改めてそちらへ伺って、流子ちゃんには直接お礼を申し上げさせてもらいますので…』


「いえ…、こちらこそ出過ぎたマネをして、サダト君と残されたご家族にはかえって迷惑をおかけしたのではないかと、流子共々気を揉んでおりましたので…。甲田さんからこう言っていただくと、気持ちが救われます」


『それで、流子さんはどうですか?何しろ実名を公表してあそこまでテレビで報道されたんで…、ウチのも学校でいやな思いをしてはいないかと心配しておりまして…』


「おかげさまで、周囲からの嫌がらせとかは全くないそうで、むしろ、あの子には好意的に接してくれる人の方が多いようです。その辺はご心配なく…」


甲田サダトの遺族については、流子が今回のアクションを起こすにあたり、一番懸念していたことであった。
だが、真っ先に流子自らサダトの両親より了解を得て、事務所側にも事前に根回しをしてもらった後にマスコミへ接触したことで、結果的には感謝される形になったのだ。


一方…、永島弓子のその後は…。


***


「…じゃあ、弓子さん、医者は”その夢”を見るのはあくまで精神的な面からで、いずれ時間が経てば解決するといってるんだな?」


「ええ、医者はね。でも、これはサダトのこの世に残った情念よ!あんな夢、しょっちゅうなのよ。もしかしたら、あの千葉の娘が私に呪いでもかけてるかも…」


「…」


ベッドの上で、永島弓子の現恋人である若手お笑い芸人Zは、半ばげんなりしていた。


***


「…今度、違う大学病院の精神科に見てもらうわ。このままじゃ、気が変になるわよ」


あれ以来、マスコミの追求が止み世間のバッシングからも解放されたのだが、弓子の頬はげっそりとこけ、明らかに人気は下降していた。
そして彼女を悩ませていたのが、頻繁に見る”あの夢”だった。


それは浴槽につかっていると、急に湯が真っ赤になり、いつの間にか水面には”何かが”湯気に包まれながらふわふわ浮いていると…。


そう…、ネット上ではテレビの報道がなくなっても、むしろサダトの局部切断の衝撃にはあれこれと所説が飛び交い、東京湾で複数の”それらしきモノ”が発見されたとかの怪情報がまことしやかに流れているのだった。


そんな書き込みが人々に与える脳裏に浮かぶビジュアルは、きわめてグロなのは言うまでもない。
ましてや、サダトと浴室で性交に及んだ元恋人としては、あまりにリアルなイメージが焼き付く。


その後、永島弓子はうつ病を患い、芸能界からフェードアウトしていく…。