焦点の女、帰国す



この日…、ハワイから帰国した永島弓子が空港ロビーに姿を現すと、待ち受けていた報道陣が一斉に押し寄せ、焦点の女性はマイク攻撃でもみくちゃされた。


無論、現役アイドル甲田サダトが衝撃的な突然の死ということを受け、年上の交際相手であった自分に世間の耳目が集まっていることは、当の弓子も国内から情報を得て事前に承知済であった。


しかるに、彼女サイドとしては、極力コメントを避け、”嵐が過ぎ去る”のを待つスタンスであったに違いない。


だが、早くも”世間の目”が甲田サダトの死は永島弓子にフラれたことと無関係ではないと捉えており、風潮的には完全にサダトへの同情心が高まるのと連動し、弓子に対する風あたりが強くなっていたのは明確であった。


なにより、彼女は旧来から何かとお騒がせ女優という下地が培われていたという側面もあってか、この時とばかりゴシップネタが蒸し返され、彼女の悪女イメージを一気に押し上げてしまったのだ。


そんな背景もあって、芸能レポーターはのっけから弓子のスキャンダラス面に集中砲火を放つ流れになっていたのだ。


従って、世の関心は自然と甲田サダト謎の死を受けた永島弓子の挙動にスライドしており、彼女は難しい対応を迫られている事情があった。
そして、もともと向こうっ気が強い弓子は、執拗な報道陣の追及に逆ギレしてしまうことになる…。


***


『永島さん!甲田さんは自殺の線が濃厚で、永島さんとの決別が原因ではないかと囁かれていますが、甲田さんからは復縁を迫られたとかの事実はあったんですか?』


「…」


『永島さん!甲田さんの遺書には、自身が変わった性癖に悩んでいたことが記されていたようですが、永島さんはその性癖が原因で甲田さんと別れたのでしょうか?』


「…」


『永島さん!レッツロールのメンバーからは、甲田さんと永島さんの破局は結婚前提の交際が公表されて数か月後だったようだとコメントとしていますが、本当ですか?だとしたら、甲田さんが抱えていた変わった性癖が原因だったんですか?』


「…」


『永島さん!一部報道によりますと、半年前の甲田さんとの決別発覚前からお笑い芸人の既婚男性と不倫関係が続いていたとのことですが、それって、事実なんですかー?』


「…」


明らかにこんがりと日焼けした肌を微妙に露出した黒いタンクトップの上に白いジャケットを羽織りったハーフパンツ姿で、報道陣の待ち受ける空港ロビーにその姿を現した彼女は足早で闊歩し、無言を押し通していたが、サングラス越しからもその表情はとても険しいと見て取れた。


***


『永島さーん‼何かおっしゃって下さい!結婚寸前までお付き合いした年下の甲田さんの衝撃的な死を受けて、今どんなお気持ちかコメント願いますよーー!』


「…悲しいですよ。それは、当然です!」


急ぎ足をさらに加速させながら、弓子はぼそりというよりも、かなりしっかりとした活舌で第一声がまずは、各社のやじうまマイクに乗った。


『…では、ああいった壮絶な形で命を断つほどまで甲田さんを追い詰めたものって、交際相手であった永島さんは何だったとお考えでですかー?』



「…」


『やはり、特有の性癖が原因だったと思われますか?永島さんは彼からその悩みを打ち明けられていたんですよね?』


「…」


『永島さん、お答え願えませんかー‼ファンの人達も本当ことを知りたがっているんですよ!永島さん、その性癖、もちろんご存知だったんですよねー?』


ここで彼女は一旦立ち止まった。
すると、瞬きする間もなく、周囲を芸能レポーターのマイクが取り囲んだ。