融合という暗黙



家へ戻る車中、サダトは”今後”の考えを流子に告げた。


「実はさ…、芸能界、ずっとは無理かなって気持ちになってる。今のグループも最早、解散でバラ売りって方針みたいなんだ。そうなったら、オレ一人のピンじゃあ生き残れないのは自分がよくわかってるし…。まあ、すぐではないだろうけど。流子ちゃんにはまず承知しててもらいたいから…」


「私、うれしいよ。ちゃんと話してくれて…」


流子は、今の時点で彼がそれを告げてくれたことが何よりうれしく、感謝した。


”芸能界で生き残れないあなたであっても、私にありのままを晒してくれてる、遠縁のお兄ちゃんが私はずっと好きなんだから‼”


彼女は胸の内でそう絶叫を繰り返すと、その両目はもう潤んでいた。
そんな動揺あらかたな流子に、サダトはさらに嬉しい追い打ちをかけてくれる…。


「…流子ちゃん、近いうち…、できれば夏休み中にさ、一度、都内のオレの部屋に来てくれるかな…」


「えっ…、いいの、私行って?」


これまた思いがけない彼からの投げかけに、一瞬戸惑った流子はぎこちなくこう聞き返した。


***


「もうオレ、潮田流子がいないとオレでいられないと思えるんだ。…まだ高校生のキミを拘束するようなことは避けたいんだけど…。本当はね…」


ハンドルを握りながら、サダトはしんみりと心の奥を吐露したのだろう。
彼は正面を向いたままだたったが、その横顔で流子はサダトの表情が推し量れた。
そして…、彼女もまた、自分の偽らざる気持ちをここで告げた。


「私もだよ!…今までコクられた男の子は何人かいたし、その中には私も好きだった子も…。でも、カレシ作ることもできなかったよ。芸能人になって、自分なんか手の届かないところに行っちゃったって、そう自覚しても、私は甲田サダトがいないと私で生きて行けないって…‼」


ここでの流子は、しっかと口に出して絶叫が言えた。


「流子ちゃん…」


「サダト兄ちゃんがあの浦潮の洗礼受けた時…、そこでのその遠い記憶が私をそうしたんだよ。私たちは海と繋がったから…」


「…」


ここ大岬を抱く紺碧の大海…。
その海とサダト、そして流子がつながったあの遠い記憶…。
自分にとってはずっと宝物だった。


この時、彼女は改めて、そう確信できたのだ…。