王宮の大広間には、すでにたくさんの人たちが集まっていた。国内の貴族たちはもちろんのこと、他国の王族や貴族、外務官たちの姿まである。

 もっとも、下位貴族の令嬢であるカミーユに、国内の貴族はともかく、他国の貴人たちと面識があるわけもなく。エスコートしてくれるアルベールの言葉で、それを知ったのだった。

 アルベールと並んで会場に足を踏み入れれば、広間に集まった人々の視線が一斉にこちらへと向かう。興味本位にこちらを眺める人々に交じって、明らかな敵意がいくつも感じられた。

 公爵家の嫡男のエスコートを受けているからか。英雄閣下であるアルベールの婚約者となったからか。いずれにしても、カミーユの存在を気に入らない者たちは、カミーユが想像していたよりもずっと多いようだった。

 傍らに立つアルベールが、さりげなく自らの身体でカミーユを隠そうとするのに気付き、「大丈夫ですわ、アルベール様」と密かに声をかける。このくらいのことで、アルベールの手を煩わせたくはなかったから。



 気に入らないのは分かるけれど、アルベール様の婚約者となった私が怖じ気づいていたら、……何よりも、私を選んでくださったアルベール様に失礼だもの。



 敵意の主のほとんどが女性であったこともあり、カミーユは己を奮い立たせて背筋を伸ばす。婚約者となった以上、自分の評価もまた、アルベールの評価となるのだ。怯えている場合ではないと、そう改めて思った。

 問題ない、と伝えるために、頭一つ以上背の高いアルベールを見上げながら微笑みかける。彼はいつも通り何かを誤魔化すように空咳を零した後、「行こうか」と言って笑みを返してくれた。



「陛下に挨拶をした後は、好きに過ごして良いはずだ。もっとも、挨拶にくる者たちの相手をせねばならないだろうが。……疲れたらすぐに言って欲しい。休憩室とは別に、私専用に部屋を陛下に用意してもらっているから、気兼ねなく休めるだろう」



 僅かに身を屈めて、アルベールはそう耳打ちしてくる。その近さに、今では恐怖よりも緊張を感じながら、こくりと頷いた。

 今回の夜会で、休憩室がいくつか用意されているのは知っていた。男性用の休憩室に、女性用の休憩室。少し広めの部屋は、誰もがくつろげる空間となっていたはず。そのため、個人でも先に伝えておけば休憩室を用意してもらえるのだな、くらいにカミーユは思っていた。

 まさかそれが、『カミーユのために休憩室を用意しなければ、夜会への参加を取り消す』と、アルベールが国王であるテオフィルに言い切った結果であるとは、気付くはずもなかった。