「僕は桜良ちゃんの高校時代からの友達で伏見禅と言います。禅って呼んでください」

そう言って男は人懐っこい笑顔で俺の前に右手を差し出してきた。

「じゃあ、禅くんで..。私は皆藤竜海です。」

竜海は禅くんの差し出した手を取ると
貼り付けた笑みを浮かべて対応する。

「じゃあ、場所と時間が決まったら桜良ちゃんから連絡してもらうんで現地集合で大丈夫ですか?」

「ああ、構わない。」


「では、当日に現地で落ち合いましょう。
桜良ちゃんは僕が車で迎えにいくので安心してゆっくり来てください」

何が安心してくださいだ?
安心できるわけないだろう?

「いや、
桜良の家の場所は私の家から近いし、
よく知ってるから私が迎えに行くよ」

俺は引きつりそうになる表情筋を
無理矢理、笑顔にもっていく。

二人の間に少しピリッとした空気が漂った。

「桜良ちゃんどうする?」

迷った禅くんが選択を桜良に委ねた。

「あの、竜海さん..?
私は別にバスで行っても大丈夫ですよ?」

桜良は不穏な空気を察したのか
遠慮がちに言った。

「どうせ同じ所に行くわけだし、
ついでだから桜良は気にしないで」

俺と一緒に行くのは嫌なのかと
少し胸を痛めながらも笑顔で言った。

「ありがとうございます。
では宜しくお願いします。」

桜良は申し訳なさそうに頭を下げた。