「そっか。残念だな」　

竜海は笑いながら、桜の木を見上げると
再び口を開いた。

「桜ってまるで上杉さんのようだよね」

「どこがですかっ。私はずっと名前負けだと思ってこの名前少し恥ずかしかったです。」

「名前負け？そうかな？」

「そうですよ。私、こんなに綺麗じゃないですし。それなら専務の秘書の松谷さんのほうがよっぽど..」

「綺麗って見た目のことだけ言ってる？
人の美しさってさ、見た目では分からない事もあると思う。桜は夏の暑さや冬の寒さに耐え抜いて春に満開の花を咲かせるんだ。
まるで皆に優しく笑いかけるように。
その優しい雰囲気に皆また会いたいと思って
心を囚われてしまうんだ。」

竜海に優しく見つめられ、桜良はポゥーッと詩の朗読を聴き入るように
見惚れしまっていたが、
「実は僕も君に心を囚われてしまってる一人なんだけど..」
そう竜海に囁かれ、「ふえっ？！」と可笑しな声を上げてしまった。

「す、すみません！びっくりして」

桜良は真っ赤な顔を手で覆った。

「ハハッ。上杉さんは反応がいちいち可愛いよね。」

そう言いながら、竜海はポンっと桜の頭に手を乗せると「どうしてくれようか？」と言って桜良の顔を覗き込んだ。