少しの間、二人で見つめあっていると
急にヒュウっと少し強めの風が吹いて
ざわざわと揺れる桜の木から桜吹雪が宙を舞った。
桜良は冷たい夜風に少しケホッと小さく咳き込んだ。

「ごめん。これじゃあ上杉さんが風引いてしまうな。」

竜海は自分のコートを脱ぐと
隣に座る桜良の肩にそっとそれを掛けた。

「私は大丈夫です!これじゃあ、専務が寒いじゃないですか!」

「大丈夫。実は今、とても緊張してて寒さなんて感じないから」

「緊張...?」

私が緊張するのは毎度のことだけど
専務が何故緊張なんてするのだろう?

桜良が不思議そうな目で
竜海を見つめていると
「そんなに見つめられたら余計緊張してしまうから、あまり見ないで」
竜海は口元に手を当て照れくさそうに呟く。

「す、すみませんっ」

桜良はさっと視線を下に向けた。

すると竜海は「ごめん、それだとやっぱり寂しいからこっち見て..」そう言って桜良の顎に手を添えてそっと竜海の方を向かせた。

桜良は真正面から竜海に見つめられ
恥ずかしさのあまり思わずギュッと目を瞑った。

竜海は桜良がいきなり目を閉じたので
思わずゴクリと喉仏が上下した。

「上杉さん、これってもしかしてキスを誘ってくれてる?」

思いがけない竜海の言葉が降ってきて
桜良は「ち、違いますっ」と
慌てて目を見開いた。