そして、目の前の席の入社2年目だという
企画製作担当の
佐久間結弦(さくまゆずる)が
「桜良さんは昆虫って好きですか?」
キラキラした瞳を向けて訪ねてきた。


「へ?昆虫ですか?」

私は突拍子もない質問に
思わず目が点になる。

「桜良さんごめんね、コイツ昆虫マニアだから。面倒くさかったら流してもらって
大丈夫だよ。」

社長の黒木琢磨(くろきたくま)が
コーヒーを飲みながら口を挟む。

「黒木さん、面倒くさいって失礼だな」

結弦くんは口を尖らせて言った

「馬鹿だな。大体、女性は虫が苦手な
人が多いんだからそんな質問するなよ」

黒木の言葉に結弦は
「えっ!?桜良さん虫苦手でしたか!?
だとしたら、すみません!」
真っ青な顔で謝ってきた。

「あっ、いえ。
虫は大丈夫ですよ。
子どもの頃は網を持って
追いかけてましたから」

私の言葉に
結弦くんはパアッと顔を華やかせた。

「本当ですか!!
ちなみにどんな虫が好きですか?」

「んー、やっぱりカブト虫ですかね。」

「僕もです!!
カブト虫は虫の王様ですからね」

「ブフッ、カブト虫が王様?
そんなの誰が決めたんだよ?」

黒木さんがコーヒーを吹き出しそうになる。

「僕ですよ。」

その言葉に皆、
ハアッと息を吐くと
それぞれの仕事を再開した。

「あっ、桜良さん、あと僕のことは結弦で呼んでもらって構わないです。皆、下の名前で呼んでるんで」


「じゃあ、結弦くんで.. .これからも宜しくお願いします」


「はい!こちらこそ宜しくお願いします」


私は元気に返事をする結弦くんに思わず顔を緩めた。

良かった...

ここなら人見知りの私でも
何とかやっていけそうだ...

そしてこんなに恵まれた会社を紹介してくれた竜海さんに心の中で感謝した。