蘭様による最大級の嫌がらせに一度は絶望したけれど。
 絶望したままというのは、蘭様の思うツボだと考える。
 ここまでの度重なる不幸に発狂するのを通り越して。
 どういうわけか冷静に物事を受け止められる。
 一人じゃないからかな?
 バニラが(そば)にいてくれるから。
 きっと味方がいるお陰。
「マヒル様って、見かけによらず多才ですわね」
 彼女なりに遠回りして言った誉め言葉に苦笑する。
 根っからのお嬢様気質の私が、トンカチを持って釘打ちをしていたら誰でも驚くだろう。
 調律師としてのスペックがあるせいか、ものづくりは得意なのだ。
「まあ、多才と言っても。家事全般は一切できないけどね」

 私とバニラ2人だけの作業はあまりにも先が見えないけど。
 棟梁は人情に厚い人で、蘭様からの監視の目をかいくぐっては。
 堂々と手伝ってくれるから有難い。
 50代の棟梁はサングラスをかけ、ベースボールキャップを被りただならぬ雰囲気を出していた。
 寡黙で、怖そうだけれど的確な指示で。どうすればいいか段取りを丁寧に教えてくれた。

 文句言うわりには、マリアちゃんも心配してたまに見にきてくる。
 私がツナギ姿にノコギリ持っているのを見て「マジかよ!?」と驚いていた。
 まあ、面倒見の良い性格というのを、バニラはすぐに見抜いたのか。
 マリアちゃんの前でわざと(・・・)よろけたりするという演技をしてみたところ。
「しょうがねえなあ。貸せ」と木材を運んでくれたり手伝ってくれるという。
 …なんやかんやで良い人だ。

 カスミ様の屋敷で働く男の子4人は毎日のようにやって来ては。
 手伝ってくれるようになった。
 どうして手伝ってくれるんだろうとカイくんに()いたら。
「マヒル様がキレイだから」
 と、スケッチブックに書いてくれた。
 うん。悪い気はしない。

 建築中の間。
 サンゴさんは快く「うちで暮らせばいい」と言ってくれた。
 恐る恐る「サンゴさんが王家に罰せられることはないんでしょうか?」と言うと。
「あ? 俺に命令できるわけないだろ」
 と、言い切った。
 サンゴさんと王家で一体何があったのか。
 わからないけど、気にしても仕方ないか。