11~12歳くらいの男の子。
 白いシャツにサスペンダー付きの黒っぽいズボン。
 時折、男の子はこっちを振り返りながら、ずんずんと突き進んでいく。
 やがて一軒の家が見えた。
 瓦葺の屋根、古そうな建物。
 男の子はガラガラと引き戸を開けた。
 入口のところで待っていると。
 男の子は誰かを連れて戻って来た。
 暗闇から、ぬおっと登場したシルエットを見た時は何も思わなかったけど。
 灯かりの近くで、はっきりとその人物が見えた時には「きゃあ」と言ってしまった。
 男の子が連れてきた人というのは、20代前半くらいの男性だった。
 半袖から出た筋肉質な腕は…片方しかなかった。
 左手はあるのに、右手が…ない。

「誰、あんた達?」
 いきなり悲鳴を上げて失礼な態度を取ってしまったというのに。
 男は気にとめる様子はなく言った。
 男の子はぐいぐいっと男の着ている半袖の裾を引っ張ると。
 手に持っているスケッチブックに何かを書き始めた。
「なになに…この人達は・・・王子様にいじめられて家をなくした人達? 本当か?」
 鋭い目で男は私を見て、反射的に「はいっ」と言ってしまう。
 男の子はいつのまに、私とカスミさんの会話を聞いていたのだろうか。

 男の子はスケッチブックに書き連ねて、男に見せる。
 男は、「あー…」と言って人差し指で眉毛を書いた。
 男が悩んでいる間に、男の子はページをめくって急いで何かを書いて男に見せる。
「ああ、わかったよ」
 男はぽんぽんっと男の子の頭を撫でた。

「今夜は、うちに泊まっていくか?」