夜会会場はたくさんの貴族で賑わっていた。煌びやかで上品なホールにサムエレ殿下と二人、並んで歩く。


(ジャンルカ殿下に婚約破棄されて初めての夜会だから、本当は少し怖かったのだけれど)


 わたくしを見ても、コソコソと噂話を始めたり、傷口を抉るような人はここにはいない。皆いつもの様に穏やかに言葉を交わしてくれた。


「楽しんでくれてる?」

「――――すみません。夜会なんて慣れっこの筈なのですけど」


 一抹の気恥ずかしさを感じつつ、わたくしはそう答えた。


(不思議)


 隣に居るのがサムエレ殿下というだけで、全てが違って見える。
 これまでは夜会と言えば、いつも気を張っていた。ジャンルカ殿下が何か失礼を働くのではないか、サポートが必要になるのではないかと気が気じゃなかったからだ。


(サムエレ殿下にはそんな心配がないもの)


 彼の応対はいつも卒がなく、安心して見ていられる。嫌味な貴族が相手でも、サラリと躱して微笑むことができると分かっているから、本当にありがたい。