(あれ?)


 その時、わたくしは思わず目を見開いた。
 ついこの間まで、ジャンルカ殿下のことを思い出す度に、胸が痛くて堪らなかった。自分を不甲斐なく思って、情けなくて、そして苦しかった。
 だけど今、わたくしの胸には何の痛みも走らない。彼のことを思い出して笑える日が来るなんて、この間までは想像もできなかったことだ。


「女性を立てる、というつもりじゃないんだけどな」


 そう言って殿下は困ったように首を傾げる。わたくしも一緒になって首を傾げたら、殿下はクスクスと笑い声をあげた。


「だって俺、本音しか言ってないし」

「……え?」

「――――ずっとずっと、兄上が羨ましいと思っていたから」


 殿下は照れくさそうな笑みを浮かべ、わたくしの手を優しく握る。その瞬間、身体がぶわっと熱くなった。
 心臓が恐ろしい程に早鐘を打つ。殿下は真っ直ぐにわたくしのことを見つめていた。何かを乞うような熱い瞳に、血液が沸騰するような心地を覚える。