それから数日間、サムエレ殿下はわたくしを連れて、色んな所に出掛けてくれた。王都で人気のカフェやオペラ座、馬での遠乗りもした。さすがに講義をサボったのは、初日だけだったけれど、一人で考え込む時間が少ないことは本当にありがたかった。


(どうしてサムエレ殿下は、こんなに親身になってくださるのだろう)


 元々優しい方ではあったけれど、今のわたくしは彼とは何の関係もない。だって、お兄様であるジャンルカ殿下との婚約は破棄されてしまったのだから。彼にとってわたくしは、一クラスメイトに過ぎないのだ。


(責任感の強い方だから)


 もしかしたらお兄様の代わりに償いをと……そう思ってくれているのかもしれない。けれど、それならそれで申し訳がなさすぎる。だって、わたくしに付き合うことで、サムエレ殿下の勉強や鍛錬の時間がなくなってしまうのだもの。もしもこのせいで殿下の成績が落ちてしまったら――――そう不安を口にしたら、サムエレ殿下はケラケラと笑った。


「俺がムキになって勉強していた理由、ディアーナは知らないんだね」


 殿下はそう言ってわたくしの頬をそっと撫でる。
 その途端、何故だか心臓がドキドキと高鳴った。けれど、きっと殿下に他意はない。変に意識しているとバレたくなくて、わたくしはそっと目を逸らした。