そのままの君が好きだよ

「あのさ……昨日の今日だから無理かもしれないけど」


 そう言ってサムエレ殿下はわたくしの手を握る。思わぬことに、わたくしは目を見開いた。


「兄上のことを考えるのは止めなよ」



 殿下の言葉に、わたくしの胸が震える。


(なんてお答えしたら良いのだろう?)


 そんなことを思いながら殿下のことを見つめていると、彼はふ、と目を細めた。


「――――まぁ、忘れられるように俺が頑張れって話なんだけどさ」


 サムエレ殿下は言いながら、バツの悪そうな表情を浮かべる。わたくしはフルフルと首を横に振った。


「いえ! 殿下は何も悪くありません。婚約破棄の原因もそう――――悪いのは全部わたくしで……」

「ディアーナは何も悪くないよ」


 けれどその時、一切迷いのない口調で、サムエレ殿下はそう口にした。


「……え?」

「ディアーナは何も悪くない」


 サムエレ殿下は真剣な表情でそう繰り返す。その瞬間、何の予兆もなく、涙がぽたりと零れ落ちた。