「ディアーナ。僕は君との婚約を破棄する」

「…………え?」


 それは、わたくしの婚約者――王太子であるジャンルカ殿下からの、本当に思いがけない一言だった。驚きのあまり目を見開き、わたくしは殿下のことを見つめる。殿下は眉間に皺を寄せ、苦し気にこちらを見遣りながら、大きなため息を吐いた。


「突然のことで驚いたと思う。だが僕は――――」

「おっ……お待ちください、殿下。婚約を破棄だなんて……何かの間違いでしょう?」


 嘘だと言って欲しい――――そんなわたくしの願いが叶わないことは、殿下の表情を見れば一目瞭然だった。


「ディアーナ……君には申し訳ないと思っている」


 殿下はそう言って大きく首を横に振ると、わたくしの手を握った。眉間がじわじわと熱くなり、瞳に涙が滲んだ。胸のあたりがひどく痛く、息が上手く出来ない。そんなわたくしのことを気の毒そうに眺めながら、殿下はそっと目を伏せた。


「新しく聖女が誕生したんだ」


 殿下の言葉にわたくしは目を見開いた。