普通ならそんな時期に転校なんかしたくなかったはずだ。

こいつのことだし、前の学校に仲良い友達がたくさん居たはず。

もしかすると好きな奴もいたかもしれない。


それでも親が決めたことだからと、そこでも我慢して、まったく知らない家で暮らすことになって。


文句を言っているところなんか見たことすらなかった。

いつも笑って、父さんにも気をつかって、俺とも必死に打ち解けようとして。


ああ、そうか。


こいつが俺たちを上手く回してくれていたんだ。



「なにが寂しい?」



小さな頃からずっと父親がいなかったこと?
母親が再婚した男に取られたこと?

それとも、俺と前みたいに話せなくなったこと…?



「…だから泣くなって」



閉じた目から、ツウっと頬に涙を流すゆら。


いつも朝は図書室で勉強とか言ってるけど、あんなの嘘なんだろ。

帰ってきたらすぐ地味な服に着替えるし、夜だって夕食が終わったらすぐ部屋に行くし、風呂だって必ず一番風呂は俺に入らせてくれる。


テレビだって、いつも俺が気になるものにチャンネルを回してくれて。


俺に嫌われていると勘違いしてるあんただから、極力俺の生活の邪魔をしないようにしてんだろう。