だから俺が求めていたものをぜんぶ兼ね備えているわけだけど、一家にひとりは必ず存在してほしい絶対的安心である“父親”という存在。


それまでのゆらは、そんな存在が無いなかで生きていたんだ。


どんなものからも守ってくれる、言ってしまえばヒーローみたいな存在。

それを知らないまま育ってきたゆらの弱さが、ここで初めて見えた気がした。



「こういうときこそ俺を頼らないでどーすんだよ」


「っ…!」



ブランケットを手にして、ふわっと頭から被せてやる。

包み込むように腕を回してから、俺はゆっくりとゆらの背中を撫でた。



「な、ナナ…と、くん」


「……ナナちゃん」


「…ナナ…ちゃん」


「そう」



やっと呼んだし。

まあ……呼ばせたんだけど。



「ごめんね、迷惑かけて…ごめん、」


「どこが迷惑だよ。あんたはさ、たぶん、我慢しすぎ」



しなくていいとこまでしちゃってんだよ。
頑張っちゃうんだろ、誰かのために。

そんな癖が幼少期から身体に染み付いてんの。