「ごめん丸井…、お前は入学当初から俺に憧れてくれてたのに……、
お前に優勝をやれなくて、情けない結果を見せて……ごめんな、」
この人は中学生の頃から名前が上がっていた。
中学は他校だったから、高校はもちろん甲斐田先輩を追いかけて入学したようなもの。
「先輩だけだったんですよ」
震える声をして下を向いていた視線が、ゆっくりと捉えてくれる。
この人は優勝をウチに渡すつもりだったのかと、ウチがずっと先輩に憧れていたことを知っていたのかと、それだけで嬉しかった。
そして今、こうして先輩と話すことができて十分だった。
「初めてウチを見たとき、男だって間違えなかったのは」
「…だってお前は女だろ」
「そう見てくれる人間って、ウチの周りでは珍しいんですよ」
うまく笑えていただろうか。
無理して作った笑顔というよりは、緊張で強ばってしまう笑顔だ。
この人と野球以外の話はしたことが無かった。
先輩とウチを繋ぐものは野球なんだって、それしかないんだって思うことが嬉しくもあるのに、たまに悲しくもなって。
でも本当は、今みたいな話もしたかった。



