初戦敗退だなんて、部員ですらも顧問ですらも、先輩自身ですらも思っていなかったはずだ。
最京高等学校は毎年甲子園に出場している野球の名門校として有名で、優勝経験もある。
だから初戦で敗退という記録は、もしかすると今年が初めてかもしれない。
「…俺、馬鹿やった。あそこで走るべきじゃなかった、…仲間を信じるべきだった」
8回裏、4-3、ツーアウト1塁2塁。
まだ次の回で逆転のチャンスはあったが、先輩は賭けに出てしまった。
彼からすれば、そこで取らなければ後はないと思ったんだろう。
勝負というものは残酷なもので、ほんの少しでも判断を間違うと結果はひっくり返る。
それは良くも悪くもだ。
「俺が判断を間違えたから……仲間を初戦敗退にさせた」
先輩のせいじゃないです───という言葉は、きっと意味がない。
そんな言葉なんか、彼は仲間や先生たちから何百回と言われているはずだ。
だからウチが言ったところで先輩をもっと追い詰めてしまうだけ。
ウチにできることはゆらが言っていたように、先輩が少しでも寄りかかれるような存在になること。



