「…あ、せんぱ───」
「遥真くん、ちょっと休憩しない?」
その姿が久しぶりに目にできて高鳴る胸とは裏腹に、思わず物陰に隠れてしまった。
先輩の身体を支えるようにそばに立つのは、3年生の野球部マネージャー。
やっぱり自分が来ることは無かったと、また後ろ向きな考えになってしまう。
「せっかくご飯食べたあとなのに、そんなに動くとまたお腹空いちゃうよ」
「はは、だからいつも購買で買ってる」
「怒られない?」
「まあ、怒られるときもあるかな。でも…少しでも早く治したいんだ」
彼が目指しつづけていた大舞台は終わってしまったとしても、きっと後輩のためにすぐにでもグラウンドに立ちたいんだろう。
それがなんとも甲斐田先輩らしくて、じわっと目尻が熱くなった。
「中塚(なかつか)、もう日も暮れかかってるから帰ったほうがいいぞ」
「…うん。そうするね」
「親に迎えとか頼める?さすがにひとりじゃ危ないから」
あれが甲斐田 遥真という男の良さだ。
そう、誰に対してもあのスタンスなんだ。
だからウチだけに特別とか、そういう期待はしないほうが自分のため。



