「それくらい、見つけて欲しかったんだね」
「…はい」
離しちゃダメだと思った。
ナナちゃんはこの子を離すべきではないと、直感のようなものが思わせてきた。
「これ、十波くんに渡してあげてくれませんか…?もし受け取ってもらえなかったら、お姉さんが食べてください」
渡されたものは、丁寧にラッピングされたクッキーだった。
この時点でも気持ちを込めて作ったことが見てわかる。
「十波くんがいつも“美味しい”って言って食べてくれたものなんです。
これを食べているときは必ず優しい顔をしてくれて、毎日のように食べたいって言ってくれました」
なんだろう、すごくすごく恥ずかしくなってきた。
あの日、撮影が終わってルンルン気分で浮かれて帰ったら、この子が立っていて。
私が欲しかったショッピングモールに売られていたワンピースを着ていて、私は地味なメンズ服。
お祭りに行ってくれた、交換ノートをしてくれた、雑誌の撮影を一緒にしてくれた。
思えばそれはぜんぶ私から誘ったもので、無理やりさせたみたいなもの。
でもこのクッキーは、ナナちゃんからお願いされていたんだね。



