相変わらず、きったない男である。



この男に、とうとう初のロマンスがおとずれるときが来ました。



残暑が残る秋。外に出るとじわ〜っと汗が流れるくらい、暑い暑い秋でした。



先輩に呼ばれて、芝公園に近い、本社の人事部へ行って書類を渡してきてくれないかと、お使いを頼まれた。


横浜から浜松町まで電車に乗った。が、この男、あまりの気持ち良さに、2駅ほど乗り越したのであった。あきれた男である。



約束の時間をとっくに過ぎ、人事部のある、オフィスに向かい、体育会系のデカイ声で、『大変すみませんでした。あまりにも気持ち良かったので、乗り過ごしてしまいました』と深々と頭を下げた。が、女性の多い、このオフィスで、場違いな、声を出した男に対しての冷ややかな目は、言うまでもない。



丸めた汚いハンカチで、汗を拭き取り、担当の方を待っていた。



奥から出てきた女性に、『こちらへどうぞ』と案内され、アイスコーヒーを出された。
が、この男、なさけないことに、コーヒーが飲めないのである。
黙っていればいいものの、
『すみません。私、コーヒーが飲めないんです。』
と言ったそのとき、女性が、クスッと笑い、『実は私も飲めないんです。冷たいお茶入れてきますね。』と言ったのであった。


こんな図々しい男に、何とも、もったいないお言葉である。



そして、せっかく入れてくれたお茶を、この男は、一気にグビグビと飲み干したではありませんか。



まあ、これが、二人の出会いとなったわけで…。