────この場にいない奏汰には、大雅からテレパシーで始終を伝えておいた。
突然の凶事に各々ショックを隠しきれない。
「だけど……困ったもんだな」
ぽつりと蓮が呟く。
こちらが敵意をこらえて歩み寄っても、冬真たちとは相容れないかもしれない。
蓮の言葉がそういう意味だということは、この場にいる全員が理解していた。
ゲームに対して乗り気な上、話の通じる相手ではないのだ。
琴音にとっても難しい問題だろう。
万が一にも彼らと打ち解ける機会が訪れたとしても、彼女は瑠奈を拒絶するはずだ。
当然、ほかの面々も瑠奈のしたことや冬真の魂胆は許せない。
けれど、小春の信念に基づけばそんな彼らのことも受け入れるべきだということになる。
アリスは不満気な苦笑を浮かべた。
「厳しいんちゃうか? あんな奴らと仲良しこよしなんて」
仲間が殺されても笑って許し、大手を広げて歓迎できるような仏の心なんて持ち合わせていない。
慧の無念を思えば、それが正しいのかも分からなかった。
「でも、わたしは……誰も傷つけたくないし、殺したくない。みんなにも殺し合いなんてして欲しくないの」
「そんなこと言っても……。また狙われたらどうするん? 自衛のために反撃するのは致し方ないことやろ。その結果、殺してしまったとしても」
「そのときは……襲われたときは、わたしが助ける。わたしが守る、みんなのこと」
「どうやって?」
毅然と言いきった小春に、アリスはすぐさま食い下がる。
「あんたの異能は攻撃に向かへんやん。まあ、誰も傷つけたくないあんたにはぴったりかもしれへんけどな」
皮肉のように言ってのける。
守ると言っても、具体的にどうするつもりでいるのだろう。
傷つけたくないからとひたすら逃げ回る気なら、それは“守る”とは言わない。
しばらく黙り込んでいた小春は、やがて毅然と顔を上げる。
「考えてることがある。もう少しだけ待ってくれないかな……? 口だけでは終わらせないから」
◇
夜が更けた星ヶ丘高校の屋上で、冬真は珍しく苛立っていた。
こう何度もしてやられると、さすがに我慢ならない。
しかし、どうしたものか。
「…………」
律は警戒を深めながら大雅を観察する。
彼はその視線に気づかないふりをしていた。
記憶が戻っていないと思わせるため、危険を承知であえてここへ来たのだった。
また、冬真が琴音の能力を思い知ったいまなら、そう簡単に“殺しにいけ”と命じられることもないだろうと踏んだ。
それ以前に、二度と絶対服従の術にかかるつもりもないが。
「その……冬真、悪ぃ。しくった」
繕うように言うと、振り向いた彼は微笑みをたたえたけれど、目がまったく笑っていない。
そのとき、キィ、と金属音を響かせながら扉が開いた。



