「冬真くんには大雅くんの裏切りがバレてたんだよね……。でも、大雅くんの記憶を操作して利用した。冬真くんをどうにかしないと、こんなことの繰り返しじゃないかな」

 アリスも「うんうん」と頷く。

「まずは如月冬真を殺すしかなさそうやな」

「……それは駄目」

 小春は即座に反論した。

 アリスは眉を顰める。

「何や、まだ言うんか? 躊躇なく殺さんと、食われるのは自分やで。このゲームは、綺麗事じゃどうにもならん」

 どちらの言い分も理解出来るが、この場にいるほとんどがアリスの言葉を支持することだろう。

 実際、相手が殺す気で刃を向けているのに、こちらは抵抗せず武器を捨てろなどという話は、無謀でしかない。

 このゲームにおいて、倫理観や理想は、生存のための判断を鈍らせる。

 しかし、小春は首を左右に振った。

「違う、私が言いたいのはそういうことじゃなくて」

 そういうことでもあるのだが、ただ殺しを非難したいわけではない。

「魔術師同士で殺し合ってる場合じゃないと思う」

 ウィザードゲームのすべてを否定する小春の言葉に、各々が怪訝そうな表情を浮かべた。

「何を今さら────」

「このまま十二月四日を迎えたら全員死ぬ。かと言って唯一の生き残りになろうとしたら、蓮や他の皆のことを殺さなくちゃならないことになる。私だけ生き残っても……仲間はもう誰もいない」

  蓮は神妙な面持ちで、小春の紡ぐ言葉を聞いた。

「それは絶対に嫌。でも、何も出来ずに皆死ぬのも嫌。……だから」

「まさか────」

 小春の言わんとすることを察した蓮は、驚きのままに瞠目する。

 小春は毅然として頷いた。

「そう……。私は、これを仕組んだ連中を倒したい。それだけが唯一、全員が助かる道だと思うから」

 これまで考えなかった、というか思いついても諦めていた可能性を、小春は主張した。

 確実に人間ではない、得体の知れない運営を、敵として相手取ると言うのだ。

「あんた正気か……? そんなん無理に決まっとるやろ。こんな会話聞かれたら消されるで」

「だが、一理ある」

 意外なことに、慧はこれにもまた賛同してくれた。

「このゲームには疑問点が多過ぎる。規模やプレイヤー数もそのうちの一つだな。通常は魔術師を見分ける術もないのに、唯一の生き残りになるなんて不可能だろ。全国規模なら? 世界規模なら? 倒し切れるわけがない」

 現実的な話として、それはその通りだった。

 アリスも反論しない。

「とは言っても……運営の情報もほぼ皆無よ。調べても出てこないし」

 琴音は思案顔で腕を組んだ。

 霧の中にいる運営を暴き倒すのと、神出鬼没なプレイヤーを倒し切るのと、どちらも相当に困難を極める気がする。