授業どころではなかった小春たちは教室を抜け出しており、既に屋上で大雅と落ち合っていた。
琴音とともに慧が現れ、小春ははっとする。
「望月くん……? な、何が、あったの……?」
白い顔で目を閉じたまま動かない彼を見て、それぞれの胸の内で嫌な予感が増幅していく。
「瑠奈の攻撃からわたしを庇って亡くなった」
琴音はひと息で答える。
息苦しさを覚えたのは、反動のせいだけではないだろう。
「嘘だろ……」
「瑠奈はどうしたん?」
アリスが硬い声色で尋ねた。
この場にいないということは、まさか────。
「……学校近くの公園に飛ばしておいたわ。望月のお陰でまだ眠ってるはずだけど、そろそろ解けるかも」
「何があったの……?」
小春たちがあの場を離れてから瑠奈が目覚めてしまったのだとしても、琴音の能力があればどうにでもなったはずだ。
慧が命を落とすほど追い詰められるだろうか。
「如月が現れたの」
忌々しい冬真の微笑み顔が思い出される。
琴音の中で沸々と怒りが込み上げ、眉頭に力が込もった。
小春たちはその言葉に驚愕した。そんなことが起きていたなんて。
自分たちも残るべきだったかもしれない、と悔やまれる。
こんな結末、あまりにもやりきれない。
「あいつが瑠奈を目覚めさせて、わたしは石化で動けなくなった。望月が昨晩みたいに雷撃で気絶させてくれたけど……石弾は止まらなくて」
沈痛な面持ちで慧を見やる。
血や傷にまみれていても、その表情はどこか満足気だった。
「……悪ぃ、俺のせいだ」
消え入りそうな声で言い、大雅は俯いた。
逆らえなかったとはいえ、居場所を明かしたのは紛れもなく自分だ。
「ちがうわ、わたしのせいよ。わたしが油断したばっかりに……」
思い詰めたように目を瞑った琴音を見やり、小春はその手を取った。
固く握り締めた拳を包み込む。
「琴音ちゃんのせいじゃないよ。大雅くんのせいでもない。望月くんの選択を、残されたわたしたちが悔やむのはやめようよ……」
小春は涙を滲ませながら、必死で言葉を紡いだ。
慧の死を悼みこそすれ、それぞれが自責の念に駆られるのは、彼とて不本意なはずだ。
「辛かったよね。でも、思い留まってくれたんだね。琴音ちゃんは優しいよ……。ありがとう」
仇敵とも言える瑠奈を前にしても、琴音は彼女を殺す選択を踏みとどまった。
全面的に小春の主張が響いたわけではなかったとしても、結果的にそれを尊重する形となった。
大雅は目を伏せ、琴音は涙を流す。
実際には寸前まで、激情に負けそうになっていた。
そうしなくてよかった、と思えたいまなら、心に絡みついてきていた呵責の念が、徐々にほどけていく気がした。
慧のためにも仲間のためにも、正しい判断をしたのだと思えた。



