ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


「おい、小春の言葉を忘れたのか? 魔術師同士で殺し合ってる場合じゃねぇだろ」

 小春がその話をしていたとき、大雅は意識を失っていたはずだ。どうして知っているのだろう。

 一瞬そんな疑問がよぎったものの、気に留めている余裕はなかった。

「だとしても、こいつは許せないわ! 必要なら能力だけ奪えばいい。こいつ本人は死ぬべきよ」

「慧がそれを望んでると思うのか」

 その言葉に琴音の瞳が揺れる。

「慧もそう思ってるなら、とっくにそいつを殺してた。殺すこともできたのに、慧はそうしなかった」

「…………」

「おまえがそれを無駄にするのか? 否定すんのかよ?」

 あえて厳しい口調で言う。

 琴音が感情的になるのも無理はないし、理解できる。
 それでも、我を見失ってはならない。

「殺したら……おまえもそいつと同じだぞ」

 大雅は瑠奈を見下ろして言った。

 唇を噛み締めた琴音は肩を震わせる。
 手から石が滑り落ちていった。

 気づけば慟哭(どうこく)していた。悔しく、腹立たしい。
 報復すら叶わないもどかしさ、己の無力さが恨めしくてたまらない。

 身勝手な冬真や瑠奈が憎い。
 けれど、それは元をたどれば小春の言う通り、運営側のせいだ。

 こんなゲームに巻き込まれていなければ、慧がこんなふうに命を落とすこともなかった。

「うぅ……っ」

 そして、大雅の言うことも正しい。

 自分が瑠奈を殺せば、これほど()まわしい彼女とまさしく同類になってしまう。

 慧が復讐を望んでいるはずもなく、琴音が独断でそれを強行すれば、ただの自己満足でしかない。

 涙を拭った琴音は深く息をついた。
 震える呼吸をどうにか落ち着ける。

「……ごめんなさい。わたしが間違ってた」

 大雅は表情を変えることなく、黙って彼女に目をやる。
 いくらか平静を取り戻したようだ。

「名花へ行きましょ。……小春たちにも、望月のことを伝えなきゃ」

「……ああ」

 す、と大雅に触れるとその姿が消える。
 他校生であっても、屋上なら問題なく入り込めるはずだ。

 琴音はそれから、瑠奈を見下ろした。
 目を閉じ、深く息を吸う────。

 (たぎ)るような激情とどうにか折り合いをつけると、右手をかざした。

(わたしは、こいつとはちがう……)