「なぜ、だろうな……。仲間とやらに、感化されたのかも……」
声を発するのもやっとだった。
息も絶え絶えの慧は自嘲気味に笑ったが、同時に満足気でもあった。
悶えるほどの激痛はいつの間にか消え、息苦しさも感じなくなっていた。
あとは、ただ眠るだけだ。
琴音の目に涙が滲んだ。眉間に力が込もる。
「こんな選択、あなたらしくもない……! 勝手にわたしを守って、勝手に死ぬなんて許さないわよ!」
ぽろ、と右目からこぼれた雫が、色のない彼の頬に落ちる。
「そうだな……。“ばかな真似”をしたが、後悔はしてない。仲間というのものも……悪くなかった」
以前の自分なら、誰かのために命を投げ出すような真似は決してしなかったはずだ。
それは愚の骨頂だと信じて疑わなかった。
そうではないのだと教えてくれたのは、紛れもなく“仲間”の存在だった。
それを救えたのなら、変化のきっかけをくれた琴音を守れたのなら、悔いることは何もない。
いまは心からそう思えた。
そんな自分の変わり様も、恥ずかしげもなく“仲間”などと口走ることも、この結末も、慧にとっては満ち足りていた。
ふと、目を閉じる。
「望月……っ!」
しがみつくようにその肩を掴んだ。
もう動くこともなければ、微弱な呼吸すら聞こえない。
「ばか……!」
涙の隙間で必死に悪態をついた。
そうしなければ、悲しみに飲まれてしまいそうだった。
自分でも戸惑うくらいに泣いた。
命を投げ出すほどの価値が自分にあっただろうか。
慧は本当にこれでよかったのだろうか。
答えの出ない問いを永遠に繰り返し、戻らない時間の無情さを嘆いて咽び泣き続けた。
────琴音が落ち着きを取り戻した頃には、大雅たちにかけられた術も解けていた。
「…………」
地面に転がっていた、砕けた石を憎々しげに睨んだ。
そのうちのひとつを拾い上げると、倒れている瑠奈にゆらりと歩み寄る。
「……?」
何か物音が聞こえたような気がして、ふと大雅は目を覚ました。
血まみれで横たわる慧。石の残骸。強い眼差しで瑠奈を見下ろす琴音。
(嘘だろ……)
一瞬で状況を把握して目を見張った。
琴音が何をしようとしているのかも悟って、慌てて起き上がるとその腕を掴んだ。
「やめろ! 復讐なんか意味ねぇよ」
「離して! 分かったようなこと言わないでよ」
珍しく冷静さを欠いている琴音は、大雅の言葉を拒絶して腕を振り払った。
その場に膝をつき、石を振り上げる。
あくまで瑠奈への復讐を強行する気だ。



