「よっぽど嫌われてるのね。何度忘れさせても楯突かれるなんて」
冬真は「悲しいな」なんて、わざとらしく肩をすくめる。
「さて……そろそろお喋りにも飽きてきたな」
冬真がそう言うと、瑠奈は自身の肩に触れた。
その瞬間、彼女がもうひとり現れる。
驚愕しながらふたりの瑠奈を見比べた。
和泉から奪った異能はあれなのだろう。物体を複製する能力だろうか。
陽斗のコピー魔法が異能のみをコピーする能力であるならば、こちらは物体のみをコピーする能力なのだろう。
先ほどの要領で複製を繰り返すと、この場に何人もの瑠奈が現れて空間を埋めつくしていく。
複製された瑠奈はオリジナルと連動しているのか、本体と同じ動きをしていて、本物の瑠奈は完全に紛れ込んでしまった。
偽物とはいえ、同じ人間が複数存在する光景は、奇妙としか言いようがない。
「厄介ね……」
「まったくだ」
最大限、警戒しながらぼやく。
その間にも瑠奈の間を縫うように思わぬところから石弾が飛んできて、ほとんど反射でひたすら避け続けていた。
慧は手当り次第にスタンガン程度の雷を食らわせていくが、瑠奈の複製は次々生み出されてきりがない。
どこかから絶えず石弾が飛んでくるものの、一向にその元に辿り着けなかった。
琴音は彼の意図を汲み、能力を温存していた。
下手に使えば、自分こそが冬真の狙う相手だとバレてしまう。
「!」
石弾を避けるべく身を屈めたとき、ふと瑠奈たちの隙間に冬真を見つけた。
高架橋の石柱に背を預け、悠々と立っている。
(こいつを飛ばせば……)
琴音は素早く冬真に駆け寄り、右手をかざした。
「────残念、偽物でした」
触れる前にどこからか瑠奈の笑い声がした。
その瞬間、周囲から大量の瑠奈が消え去る。
戸惑いを拭えないうちに、琴音の両脚と右手が石と化した。
「な……っ」
「瀬名!」
焦ったように慧が呼んだ。
そんな張り詰めた空気を、瑠奈の楽しげな笑い声が揺らす。正確には冬真の、なのだろうが。
「あー、きみが瀬名琴音だったか。瞬間移動のトリガーはその右手かな」
その読みは正しい。琴音の異能は右手からしか発動できない。
露呈してしまうと、それもまた弱味のひとつと言えた。
「せっかくだから、瑠奈ちゃん本人にやらせてあげようかな」



