「ところで、ほかの仲間はどうしたの? 瀬名琴音は?」
瑠奈は言いながら首を傾げる。
彼に琴音の顔が割れていないのが幸いだった。
「そんな質問に答えると思う?」
「あは、それもそうだね」
「時空間操作系を潰したいのはともかく……なぜ硬直魔法を欲しがる? 石化でも代わりは効くだろ」
瑠奈は指を鳴らし、作り出した小石を宙に投げて弄ぶ。
「知らないかもしれないけど、石化すると対象の思考が停止するんだ。たとえば、両脚全体を石化した時点で意識の入口が閉じてしまうんだよ」
石化とは単に身体が石に覆われるだけでなく、その内側も文字通り石と化していくのだ。内臓や脳、血管、骨、すべてが。
冬真の傀儡魔法は、相手の意識に入り込む必要がある。
その入口が閉じては介入できない。
「しかも、両脚を石化して拘束しても異能は使えてしまう。かと言って、両手を拘束しても逃げられてしまう。だから、石化魔法では不十分なんだよね」
瑠奈を介して答えた彼は笑みを深め、冷酷な眼差しで慧を見据える。
親指と人差し指で銃の形を作り、瑠奈はその先を彼に向けた。
「そんなこと聞くってことは、まさかきみが硬直魔法の魔術師?」
「まさかな」
幸いにもそれは的外れだけれど、そう思われて囮になれば、隙をついて琴音が瞬間移動を繰り出せるかもしれない。
冬真はまだ、ここにいる彼女こそが狙いの琴音だと気づいていないから。
「おまえはなぜ桐生を生かしている? 僕がおまえの立場なら、間違いなく殺してる。その異能を利用したいなら、殺して奪った方がよほど安全だろ」
律と同じようなことを言う、と冬真は思った。
「理由は簡単。……かわいいでしょ、こいつ。だからだよ。僕には敵わないって分かってるのに、何度も何度も裏切ろうとして。そのたびに記憶消されて、操られて、僕の忠犬になってるのに。ふふ、なんて健気なんだか」
昏々と眠る大雅を見やって笑う。
それ以外で合理的な理由を挙げるのなら、彼は、勉強はできずとも頭の回転が速いのだ。
冬真はその点を買っていた。
「策を考えるのがうまいんだよね。根っこの生えてる逆心さえ刈ることができたら完璧なのに」
慧も琴音もひとまずは安心できた。
それほど冬真にとって大雅が必要なら、すぐに殺されるということはないだろう。



