「瑠奈! よかった、無事だったのね……」
そう言った彼女は、座ったまま意識を失っている瑠奈に駆け寄っていく。
慧たちは思わず顔を見合わせた。
「あの────」
「あ……わたし、瑠奈の母親で、こっちは兄よ。瑠奈が夜から帰らないから心配してたんです。ああ、よかった。でも、何で縛られて……? あなたたちは……」
想定外の展開に、普段冷静な慧や琴音ですら戸惑いを覚えてしまった。
瑠奈の兄だという男子高校生は心配そうな表情で屈み込むと、縛っていたリボンの留め具を外して拘束を解いた。
それを止めるわけにもいかず、ただ見守ることしかできない。
彼は瑠奈の手首に傷がないか、触れて念入りに確かめているようだった。
「何なの、これ!?」
唐突に母親が喚いた。
何事かと思えば、彼女はおののくようにあとずさる。
「意味が分からないわ! 身体が……言葉も勝手に……!」
半ばパニックに陥りながら、母親は瑠奈と兄を置き去りに、逃げるように駆けていってしまった。すぐにその姿が見えなくなる。
急にどうしたと言うのだろう。
琴音が困惑をあらわにすると、慧は悟ったように息をのんだ。
「まさか、おまえ────」
それを受け、ゆっくりと立ち上がった兄は振り返る。
にっこりと微笑んだ。
「僕のかわいいわんちゃんたちを連れ戻しにきた」
瑠奈を介し、兄もとい冬真は言った。
あの女性は瑠奈の母親などではなく、適当に捕まえた見知らぬ人を傀儡にしていただけなのだろう。
当然のことながら、彼が兄だというのも嘘だ。
まずい────慧は再び腕時計を確認する。
ふたりの術が解けるまで、まだあと2時間近くある。
傀儡にされた瑠奈がゆらりと立ち上がった。
思わず身構えたものの、いまの彼女は無力なはずだ。
瑠奈からはステッキを奪っており、それはいま小春に預けている。異能を使えないだろう。
「危ない!」
慧は琴音の腕を引いた。その頬すれすれを石弾が掠めていく。
予想と反し、ステッキを使わずして異能を繰り出してきた。
動揺してしまうと、彼女は面白がるように笑う。
「あんなものは飾りだよ」
それもそれで、いかにも瑠奈らしい。
自らを“魔法少女”と称する彼女のことだ。
ステッキを使った方がそれっぽいから、という理由だけでそうしていたのだろう。



