「どうしたものかしらね。検索もできないし、アプリ内にも情報は皆無」
「ああ、まるで実態を掴めない。そもそも会うことができるかも分からないのに、どう倒せばいいと言うのか……」
「同じことを考えてる魔術師を探す。それが第一歩かもね。運営を倒したいと思ってる、同志を」
このゲームも運営も、まだまだ謎が多い。
彼または彼女であれば、こちらの知らない何らかの有益な情報を持っているかもしれない。
「……そうだな、それがベストだ」
仲間を増やし、情報を得る────ふたつの目的を同時に果たすことができる。
「…………」
ふ、と大雅は目を開けた。
微かに誰かの話し声が聞こえる。慧と琴音だろうか。
手首を縛られていることに気がつくと、身をよじって抜け出した。はらりとネクタイが落ちる。
声をかけようとした瞬間、頭の中に冬真の声が響いてきた。
『大雅』
目が覚めたことを見計らって、というよりかは、定期的に声をかけて意識の有無を確かめていたようだ。
無視してやりたいところだったが、冬真が「答えろ」と命じたせいで応じるほかになかった。
(何、だ……)
『意識のないふりをしたまま、いま起きてることを報告して』
大雅は奥歯を噛み締めながらも、頭の中で言葉を返す。
(琴音殺しは仕損じた。俺と瑠奈は気絶させられて、拘束されてる)
『相手は何人? どこにいるの?』
(いまはふたり。場所は────)
意思とは関係なく、すべて正直に答えてしまう。
居場所を聞いたということは、自らここへ来るつもりだろう。
「まずい、おまえら……!」
慧たちはその声にはっとして大雅を見やった。
ここに冬真が来る。
そう言おうとしたものの、ふいに声が詰まる。
『口を閉じて眠れ』
彼にこちらの状況は見えていないものの、念を入れて先回りしての命令だった。
がく、と大雅の身体から力が抜ける。
再び意識が闇へと沈んでいった。
「桐生……?」
琴音は訝しげに眉を寄せる。
立ち上がって歩み寄ってみるものの、彼は深く眠ってしまっていた。
いったい何が起きたのだろう。
何を言おうとしたのだろう。
不穏な予感を抱き、慧の表情も硬くなる。
腕時計はまだ9時過ぎを示していた。
「まあ!」
それからほどなく、突如として甲高い声が高架下に反響した。
中年女性とひとりの男子高校生が、焦ったような困惑したような表情で立っている。



